【追悼】2023 (49/141)

小説「人間の証明」やノンフィクション「悪魔の飽食」などで知られる作家の森村誠一(もりむら・せいいち)さんが7月24日午前4時37分、肺炎のため東京都内の病院で死去した。90歳だった。埼玉県出身。 ホテル勤務の傍ら雑誌に発表したサラリーマン生活に関するエッセーが好評を得て、32歳で作家デビューした。1969年、ホテルでの殺人事件を描いた本格ミステリー「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞し、翌年刊行の「新幹線殺人事件」は60万部のヒット。73年には「腐蝕(ふしょく)の構造」で日本推理作家協会賞を受賞した。 76年刊行の「人間の証明」は、殺害された黒人青年が残した詩集と謎の言葉から始まる社会派ミステリーで、東京やニューヨークを舞台に戦後日本の暗部を浮き彫りにした。東北の寒村で起こった大量虐殺事件を巡る陰謀を描いた77年の「野性の証明」と共に映画化され、ブームを起こした。 81年に新聞連載を始めた「悪魔の飽食」シリーズは3部に分けて刊行。中国で細菌兵器の実験などを行ったとされる旧日本軍731部隊の実情を明らかにしたと主張し、社会的な反響を呼んだ。 2004年に日本ミステリー文学大賞、11年に時代小説「悪道」で吉川英治文学賞を受賞。晩年には、老人性うつ病に苦しんだ経験を「老いる意味」などに著し、話題となった。写真は2004年撮影 【時事通信社】