【追悼】2023 (111/141)

1971年の沖縄返還協定を巡り、米軍用地の原状回復費400万ドルを日本政府が肩代わりするとした「密約」を示す機密公電を外務省の女性事務官から違法に入手したとして逮捕され、その後に密約開示請求訴訟の原告となった元毎日新聞記者の西山太吉(にしやま・たきち)さんが2月24日、心不全のため北九州市内の介護施設で死去した。91歳だった。 31年山口県下関市生まれ。慶応大大学院修士課程修了後、56年に毎日新聞社に入社し、政治部で首相官邸や自民党などを担当した。外務省キャップとして沖縄返還交渉を取材中の71年、懇意だった女性事務官から公電を入手。72年4月に国家公務員法違反容疑で女性事務官とともに逮捕された。 一審は無罪だったが二審で逆転有罪となり、78年に最高裁で有罪が確定。一審判決後に毎日新聞社を退社した。女性は一審で有罪が確定した。事件は後に山崎豊子さんの小説「運命の人」のモデルになった。 その後、密約を裏付ける公文書が米国で相次いで見つかり、西山さんは2005年に起訴は違法だとして国に謝罪と損害賠償を求める訴訟を起こしたが、08年に敗訴が確定。09年、国に密約の存在を裏付ける文書の開示と慰謝料を求める訴えを起こした。一審東京地裁は密約の存在を認め、全文書の開示を命じたが、二審東京高裁は請求を退け、14年に最高裁で確定した。 逮捕から50年を前にした22年3月の時事通信のインタビューでは「私は犠牲者だが勝利者。負けたのは国家だ」と事件を振り返っていた。 主な著書に「沖縄密約」「記者と国家」など。 写真は2014年撮影 【時事通信社】