【追悼】2023 (136/141)

人間心理に深く切り込んだ小説を多く残した作家で精神科医の加賀乙彦(かが・おとひこ、本名小木貞孝=こぎ・さだたか)さんが1月12日、老衰のため死去した。93歳だった。東京都出身。 東京大医学部を卒業後、1957年から3年間、フランスに留学。帰国後、東京医科歯科大で精神医学を教える傍ら創作を始め、実体験を基に北フランスの精神科病院に勤める日本人留学生の日々を描いた「フランドルの冬」で68年に芸術選奨新人賞を受賞。69年から10年間、上智大文学部教授も務めた。 その後も人間の存在意義を問う小説を執筆し、陸軍幼年学校の生徒らが青春の苦悩を味わう「帰らざる夏」で73年に谷崎潤一郎賞を受賞。拘置所の精神科医として死刑囚らと関わり、死刑制度の問題点を浮き彫りにした79年の「宣告」は映画化もされ、ベストセラーとなった。 2006年、オウム真理教事件の麻原彰晃こと松本智津夫被告(当時)に対する控訴審手続きで、弁護団に依頼されて同被告と接見し、訴訟能力はなく治療すべきだと指摘して注目された。 日本文芸家協会や日本ペンクラブの理事を務め、文学界の振興にも力を注いだ。05年に旭日中綬章、11年に文化功労者。写真は16年10月撮影 【時事通信社】