【追悼】2021 (14/209)

歌舞伎俳優で人間国宝の中村吉右衛門(なかむら・きちえもん、本名波野辰次郎=なみの・たつじろう)さんが11月28日午後6時43分、心不全のため東京都内の病院で死去した。77歳だった。東京都出身。テレビ時代劇「鬼平犯科帳」の主演でも広く親しまれた。 吉右衛門さんは今年3月、東京・歌舞伎座「三月大歌舞伎」に出演していたが、体調不良を訴えて病院に救急搬送され、治療を受けていた。 1944年、八代目松本幸四郎(初代白鸚)の次男として生まれたが、跡取りがいなかった母方の祖父、初代中村吉右衛門の養子となった。4歳の時に中村萬之助を名乗って初舞台。66年に二代目吉右衛門を襲名し、研さんを重ねた。 せりふ術に優れ、役の心情を掘り下げた深みのある立役(たちやく=男性役)の演技で、「熊谷陣屋」の熊谷直実、「俊寛」の俊寛僧都、「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助、「勧進帳」の弁慶などを当たり役とした。 松貫四の筆名で歌舞伎の脚本も手掛け、「日向嶋景清」などを執筆。2006年から初代吉右衛門の当たり役に取り組む「秀山祭」を歌舞伎座などで催し、次世代に継承する公演として情熱を注いだ。 実父の初代白鸚が主演した池波正太郎原作のテレビ時代劇「鬼平犯科帳」では、「鬼平」こと長谷川平蔵役を89年から16年まで務めた。 11年に人間国宝に認定され、17年には文化功労者に選ばれた。二代目松本白鸚さんは実兄。十代目松本幸四郎さんはおい、尾上菊之助さんは四女瓔子さんの夫で義理の息子に当たる。写真は17年10月撮影 【時事通信社】