【追悼】2020 (31/186)

立役から女形まで品格のあるみずみずしい芸で歌舞伎界の頂点を極め、上方歌舞伎の再興に尽力した人間国宝の歌舞伎俳優で、文化勲章を受章した坂田藤十郎(さかた・とうじゅうろう、本名林宏太郎=はやし・こうたろう)さんが11月12日午前10時42分、老衰のため東京都内の病院で亡くなった。88歳だった。京都市出身。妻は元国土交通大臣の扇千景(おうぎ・ちかげ)さん。 二代目中村鴈治郎の長男として生まれた。1941年に二代目中村扇雀を名乗り初舞台。能、義太夫、上方舞の名人のもとで古典芸能の基礎を身に付けた。 21歳だった53年、250年ぶりに復活上演された「曽根崎心中」の遊女お初役を鮮烈に演じて「扇雀ブーム」を巻き起こし、一躍スターに。お初は生涯の当たり役となり、84歳になるまで通算1400回以上演じた。 55年から8年間、松竹を離れ宝塚映画製作所や東宝歌舞伎に所属。映画「海の小扇太」で共演した扇千景さんと58年に結婚した。 90年に三代目中村鴈治郎を襲名。2005年に四代目坂田藤十郎を襲名して上方歌舞伎の大名跡を231年ぶりに復活させた。 戯曲を読み込み、深い解釈に基づく確かな演技で「冥途の飛脚」の忠兵衛、「心中天網島」の治兵衛、「伽羅先代萩」の政岡、「仮名手本忠臣蔵」の戸無瀬など、立役から女形まで幅広く演じた。中でも、柔らかみのある和事芸を得意とし、1981年には近松門左衛門作品に取り組む「近松座」を結成して国内外で公演。上方歌舞伎の再興に情熱を注いだ。 94年に人間国宝に認定され、2009年に文化勲章受章。12年から日本俳優協会会長を務めていた。女優の中村玉緒さんは実妹。写真は2009年撮影。 【時事通信社】