2021.12.07 スポーツ

【大相撲】照ノ富士 (12/101)

大相撲名古屋場所千秋楽で白鵬(左)を攻める照ノ富士。照ノ富士は白鵬に小手投げで敗れ14勝1敗。優勝次点の好成績などを評価され、73人目の横綱に昇進することが確実になった=2021年7月18日、愛知・ドルフィンズアリーナ 【時事通信社】 日本相撲協会の審判部は18日、大相撲名古屋場所で14勝1敗の優勝次点だった大関照ノ富士(29)=本名ガントルガ・ガンエルデネ、モンゴル出身、伊勢ケ浜部屋=の横綱昇進を諮る臨時理事会の開催を八角理事長(元横綱北勝海)に要請し、了承された。横綱昇進が確実となった。 理事長は19日の横綱審議委員会(横審=矢野弘典委員長)に諮問し、推薦を受けた上で、21日の秋場所番付編成会議と理事会で正式に決定する。横審の内規では、横綱推薦の基準を「大関で2場所連続優勝か、それに準ずる成績」と定めている。 新横綱誕生は、2017年初場所後に昇進した稀勢の里以来で73人目。モンゴル出身では、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜に続いて5人目となる。 照ノ富士は両膝のけがなどに苦しみ、大関から序二段まで転落。関脇だった今年3月の春場所で3度目の優勝を遂げ、場所後に大関に返り咲き。5月の夏場所で大関として初めて賜杯を抱いた。◇照ノ富士の略歴 照ノ富士 東大関 本名ガントルガ・ガンエルデネ、モンゴル出身、伊勢ケ浜部屋。11年5月の技量審査場所初土俵。13年秋場所新十両、14年春場所新入幕。初優勝した15年夏場所後、大関に昇進したが、膝のけがや内臓疾患などで、19年春場所には西序二段48枚目まで番付を落とした。20年7月場所で再入幕して幕尻優勝。3度目の優勝を果たした21年春場所後、大関に復帰。三賞は殊勲3回、敢闘3回、技能3回。192センチ、177キロ。29歳。得意は右四つ、寄り。 元大関の意地は捨て、5場所ぶりに土俵に立った2019年3月の春場所。序二段の力士と胸を合わせた照ノ富士が、弱気な言葉を並べた。「腰が全く下りない。自分の体が動かない」。両膝の大けがなどで力士人生を危ぶまれた男が、そこから2年余りで番付の頂点を極めるとは、誰が想像できただろうか。 付け人はいない。支度部屋の片隅で一人、遠慮がちに黒まわしを取り換える。その姿はどこか寂しげだったが、日を追うごとに前向きな言葉が増えていった。幕下に上がった19年名古屋場所では、「昔の体とは比べないようにしている。自分のやってきたことを信じてやるだけ」と言い、己と相撲に迷いなく向き合えるようになっていた。 番付も、一気に戻していく。20年初場所で関取に復帰し、返り入幕した7月場所では幕尻優勝。全盛期のような怪力がよみがえっただけではない。車いす生活が続いた時期に、「必死に生きようとしている自分がいた。一日一日の大切さを、そのときに学んだ」。何より、心が強くなった。 「人の倍ぐらいの精神力じゃないと。倍ぐらい体が駄目なんで」。いつ悲鳴を上げても不思議はない肉体を、磨き上げた「心」と「技」で補った。 今年の春場所で3度目の優勝を遂げ、21場所ぶりに大関に返り咲き。快挙に沸く周囲をよそに、本人の目はもう先を見ていた。「昔から目標にしていたのは横綱という地位。もう一歩先に進むところまで来た」。夏場所では、大関として初の賜杯を抱き、今場所も勢いそのままに走り切った。 師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は「諦めないで頑張ってきたことは、各力士のお手本になる」と言う。努力は報われるとの信条を、身をもって示した。綱を張るにふさわしい器だろう。