【大相撲】照ノ富士 (10/101)
大相撲名古屋場所千秋楽で白鵬(左)と対峙する照ノ富士=2021年7月18日、愛知・ドルフィンズアリーナ 【時事通信社】 照ノ富士が令和初となる横綱昇進を果たした。両膝に古傷を抱える29歳。より長く最高位の重責を果たすためには、復活の過程で身に付けた取り口を徹底できるかがカギとなりそうだ。 昇進ムード高まっていた名古屋場所13日目。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)が、まな弟子の成長を認めた。序盤戦からしっかり膝を曲げて前傾姿勢を保ち、相手の攻撃をさばいて前に出る。「こうやって相撲を取り、勝てるという自信を確立した」と話した。先輩横綱となる白鵬も「何年か前の相撲とは全く違った」と変化を感じ取っていた。 最初に大関を務めていた2015年秋場所で右膝を痛め、長い低迷が始まった。怪力に頼って下がりながら投げを打つ、力任せにつり上げる。強引な取り口が招いた結果だった。 元幕下力士で、駿馬のしこ名で付け人を務めた中板秀二さんによると、当時から右四つで前に出る形を磨いてはいた。ところが、本場所で負けが込むと自信を喪失。引き技に頼り、かえって膝を悪化させた。その後、序二段まで陥落して再出発。中板さんは「一番一番勝っていくことで、ちゃんと勝てる方法を体で覚えていったのだと思う」とみている。 八角理事長(元横綱北勝海)は「照ノ富士は体も柔らかい。前傾でいると相手も押しづらい」と評価。この形を継続するためにも、地道な稽古でこれまで以上に下半身を強化する必要があると指摘した。 膝の不安を自覚した上で、「自分は一つのことしかできない」と肝に銘じる照ノ富士。悔いのない土俵人生を全うするために、もう迷いはない。 ◇隆盛続くモンゴル勢=新「2横綱時代」へ 照ノ富士が昇進することで、白鵬の一人横綱は2場所で終わる。綱とりと、進退の瀬戸際。名古屋場所では、異なる重圧を抱えた二人の強さが際立った。モンゴル勢の隆盛はなお続きそうだ。 名古屋場所では元横綱朝青龍のおいの豊昇龍だけでなく、三役復帰に意欲を燃やす逸ノ城も幕内上位で2桁白星を挙げた。優勝経験もある玉鷲は11勝を挙げ、通算連続出場では歴代6位の「鉄人」寺尾を抜いた。 モンゴル出身の草分けで元関脇旭天鵬の友綱親方は、自身の現役時代を振り返って「お互いに口には出さなかったが、モンゴルのみんなで切磋琢磨(せっさたくま)してきた」という。現在、土俵に立つ後輩たちからも、秘めたライバル心を感じ取っており、「刺激し合って上位で頑張ってほしい」と願っている。 国内出身力士のふがいなさを嘆く声もある。白鵬と照ノ富士が早々と独走態勢に入ると、芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「二人とも稽古は十分ではないはずなのに、将来の大相撲はどうなっちゃうの」。 次世代を担うとみられた大関陣は、昇進から2年以上たつ貴景勝に安定感が乏しく、正代はその座を守ることで精いっぱいのようだ。大器の呼び声が高かった朝乃山は不祥事による出場停止処分を受けている。 3月に鶴竜が引退。白鵬、照ノ富士とも古傷を抱え、これからも長く頂点に並び立つとは考えにくい状況だ。それでも千秋楽を取り終えた白鵬は、「また若いライバルが一人増えた」と笑った。二人を脅かす力士は誰か。世代交代を待つのではなく、自らつかみ取る気概が欠かせない。