【冬季五輪】「銀盤の記憶」女子フィギュアスケート (25/49)
2006年 トリノ冬季五輪 荒川静香 優美で風格すら漂う荒川の舞いに、満員の場内が沸き続けた。 冒頭に予定していた2通りの3―3回転連続ジャンプを3―2回転に切り替えたが、これを無難にこなすと、手を使わずにY字姿勢を保つスパイラルでは大きな拍手を浴びた。終盤には、背中を柔らかに反らしながら滑る「イナバウアー」から3連続ジャンプへ。観客席のスタンディングオベーションに迎えられて演技を締めくくった。 「滑っている4分間、過去の試合のことが頭をよぎった。ここで滑れていることが集大成になるんだな、と」。2004年の世界選手権を制した時に近い、不思議な感覚に包まれて心地よく滑り切った。対するライバルたちはどうか。コーエンもスルツカヤも、ジャンプで転倒。終わってみれば、荒川の圧勝だった。 8年ぶりの五輪行きを決めた後、自由の曲目を、初めて世界を制した時と同じプッチーニのオペラ「トゥーランドット」に変えた。当時の完ぺきな演技と比較される恐れもあったが、ある「こだわり」を貫くためには欠かせない選択だった。 世界女王となった翌シーズン、個別の要素に点数を付ける新採点方式が本格導入された。演技全体を総合的に評価する旧方式になじみ、「美しい姿勢を長く見せたい」と考え、それにこだわる荒川。新方式に伴い、スピンの回転数やスパイラルの秒数を気にしながら滑ることに息苦しさを感じていた。競技に打ち込めなかった昨季、五輪代表を懸けた今季の苦しみ…。新採点への対応が拍車を掛けた。 だが、トリノでは「スケートが好き」という気持ちを伝えたかった。今のルールでは得点にならないが、自身の代名詞とも言えるイナバウアーを長く見せたい。そのために、この技で2年前、観衆を熱狂させた「トゥーランドット」を再び選んだ。そして、表彰台の真ん中へ立った。 「今季は失敗を恐れて小さくなっていたが、今回それはなかった」。旧採点方式では最後の世界選手権で頂点に立った荒川が、新採点制になって最初の五輪も制覇した。(写真は時事通信社)(2006年02月23日)