【冬季五輪】「銀盤の記憶」女子フィギュアスケート (4/49)
2022年 北京冬季五輪 銅メダルを獲得した坂本花織【時事通信社】 強豪ROC勢3人が上位を独占するとの見方もあったフィギュアスケート女子。日本勢1番手の坂本が、牙城を崩した。高難度ジャンプがなくても躍動感のある演技で、フリーも大きなミスなく滑り切った。6位だった前回平昌五輪から大きく、価値あるステップアップを遂げる銅。「びっくりして、涙が止まらなくなった」。普段は明るい坂本も、感極まった。 かつては、弾むようなジャンプばかりが目立つ選手だった。坂本は自らを「ガッツ系」と評したことがある。跳躍には高さも幅もあり、6位だった前回平昌五輪の後は、周囲も自分も4回転やトリプルアクセル(3回転半)の習得を望んだ。4回転のトーループに挑んだ試合があり、ループの練習もした。 最終的に北京五輪シーズンに選んだのは、大技を組み込まず、完成度で勝負するスタイル。「クリーンに降りられないと点数が下がり、リスクが大きい。けがの怖さもある」。昨夏までに安定させられなかったため、きっぱり割り切った。 一つ一つのジャンプが出来栄えに優れ、滑りに疾走感があふれている。表現力や芸術性を示す5項目の演技構成点の評価が高い。だから、大技がなくても高得点を出せる。深いエッジで体を傾けながら、繊細な演技でジャッジをうならせる。 フリーは「女性が内に秘める強さ」をテーマにしている。今季序盤は曲の解釈に悩み、使い続けるか迷った。そんなとき、2006年トリノ五輪金メダリストの荒川静香さんに「やってみて駄目なら変えればいい」と背中を押され、自問自答しながら磨いてきた。 「ガッツ系」のジャンパーだった少女は21歳となり、大人らしい表現力を身に付けた。曲のメッセージをしっかり届けられるようになった。フィギュアスケートの醍醐味(だいごみ)はジャンプだけではない。坂本の演技には、10代のROC勢とは違った魅力が詰まっていた。(2022年02月17日)