オーストラリア南部カンガルー島の自然動物園で保護されている赤ちゃんコアラ「マディ」=2020年2月24日【時事通信社】 オーストラリアを襲った大規模森林火災がほぼ鎮火し、各地で復興への取り組みが始まっている。南部カンガルー島は東京都の約2倍の面積があり、島の半分以上が焼き尽くされる甚大な被害を受けた。独自の生態系を築き「動物の楽園」とも言われる島では多数のコアラが救済されたが、「返す森がない」など課題は山積している。 島のほぼ中央部にある自然動物園「カンガルー島ワイルドライフ・パーク」。昨年12月に始まった火災の後、救出されたコアラの「臨時の病院」となり、本土の獣医師らに加え、海外のボランティアも駆け付けた。インターネットを通じて集まった250万豪ドル(約1億8100万円)の募金の支えもあり、立ち並んだ小屋ではやけどを負った約200匹のコアラの看病が行われている。 島にはカンガルーやワラビーなども生息するが、コアラは大半の時間を木の上で寝て過ごすため逃げ遅れた。推計最大6万匹いたコアラの約9割が犠牲となったとの見方がある。 「マディ」と名付けられた赤ちゃんコアラは火災のさなか、木の根元付近にいたところを救助された。母のコアラの行方は不明だ。手に軽いけがをしていたマディは手当てによって回復し、救出時に900グラム強だった体重は1日3回の人工的な授乳で1700グラムまで増えた。だが重度のやけどを負ってやむなく安楽死処分となったコアラも少なくない。夫と共に動物園のオーナーを務めるデーナ・ミッチェルさんは「できる限り多くのコアラを救えた」と振り返った。 火災でコアラが食べるユーカリの葉が焼失したため、鎮火から1カ月がたった今も栄養不足などに陥ったコアラが運ばれてくる。完治したコアラの一部は自然に返したが、焼けた森の受け入れ能力には限界があり、ミッチェルさんは「返す場所がない」と嘆く。焼けた木は自然再生の可能性も残る一方、新たに植樹する計画も浮上している。ただ「(成長には)数年が必要だ」(ミッチェルさん)といい、正常化への道のりは長い。本土のコアラはクラミジア感染拡大で生息数が減少しているが、島のコアラは感染していない。本土にとって、島のコアラが問題解決の「切り札」との見方もある。国全体が動向を見守っている。

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