【冬季五輪】「銀盤の記憶」男子フィギュアスケート (7/30)
2018年 平昌冬季五輪 銀メダルを獲得した宇野昌磨【時事通信社】 まだジュニアでもがいていた4年前には想像もしていなかった舞台で、堂々と戦った。頂点には届かなかったが、メダルは十分に輝いている。 誰よりも早く4回転のフリップを決めてギネスに認定されても、誇らしそうではなかった。2016年の初秋。世界のトップへの階段を上り始めた宇野は「記録に自分が残るのは現実味がない。これからは記憶にも残れるように」と言った。 ソチ五輪王者の羽生を追い、同世代でしのぎを削ってきた金博洋(中国)、ネーサン・チェン(米国)に引っ張られるように4回転争いに割って入った。4種類まで決め、最大7本まで入れるようになっても「(この潮流を)好ましくは思っていない」と言う。勝ちたい、負けたくないから4回転を跳ぶだけ。そこに熱い思いはない。 男くささの魅力があった10年バンクーバー五輪銅メダリストの高橋大輔に憧れた。「表現にたけている選手という部類に入れたら。ジャンプも表現の一部」と思ってきた。4回転を追い求めるあまりステップで手を抜く自分に腹を立てた。 かつて、ひときわ体が小さかった5歳の宇野を見た山田満知子コーチは「センスがある」と直感した。芸術性のあるアスリート。「フィギュアスケートは気高く上品で、それでいてスポーツ」との持論を裏付けてくれる少年だった。自身が育て、国民的スターとなった浅田真央がだぶった。山田氏から引き継いで現在まで指導する樋口美穂子コーチも「華があると思った。型にはまっていなかった」と振り返る。いわば天賦の才だった。 五輪へ向かうさなかに「今季が最終目標じゃない。通過点。もっと先のために今できるものは全部取り組む」と言って驚かせた。技術と表現、どちらを追うか。「真ん中かな。両方を極められれば」。宇野が思う究極の姿はまだ遠くにある。(写真は時事通信社)(2018年02月17日)