急な制度変更、招いた混乱=保険証「廃止」の政治決断で
医療機関を受診する際の医療保険の資格確認方法を、従来の健康保険証からマイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」へ切り替える取り組みは、従来型を「廃止する」との政治決断で始まった。医療情報のデジタル化を進める狙いだったが、制度を急に変更する中でトラブルが多発するなど混乱を招いた。患者や医療現場の不安はいまだに解消できず、マイナ保険証が広く活用されるめどは立っていない。
デジタル相だった河野太郎氏が、マイナ保険証への一本化に向け「(従来型の)健康保険証を廃止する」と、突如表明したのは2022年10月。ほぼすべての国民がマイナカードを取得するとの目標達成のため、政府が期間限定でポイントを付与するキャンペーンを展開する中での発言だった。
その後、システム整備を急いだが、別人データの誤登録や、保険資格を確認できず医療機関の窓口で「10割自己負担」を求められる問題も発覚。政府は問題に対応する一方、マイナ保険証を使うことで、医師と患者が医療情報を共有できるようになるとメリットを強調してきた。しかし、医療団体の幹部は「デジタル機器の操作に不慣れな高齢者を中心に、マイナ保険証の利用に不安を感じているのが実情だ」と明かす。
9月に行われた自民党総裁選では、従来型保険証の廃止時期が論点となり、石破茂首相自身が見直しを示唆したが、結局、政府は方針を変えなかった。
今月2日以降はマイナ保険証が基本となり、使えない人には代わりに「資格確認書」が発行される。従来型保険証も最長1年使える。資格確認書は、形状や記載内容が従来型保険証とほとんど同じで、有効期間は最長5年で更新できる。医療関係者の間では「健康保険証が資格確認書に名称変更しただけではないか」との声が漏れる。
マイナ保険証は10月末から登録を解除できるようになった。申請件数は11月8日時点で792件で、さらに増え続けているという。これに対し、厚生労働省幹部は「マイナ保険証の機能をスマートフォンに搭載する新たなサービスが来春にも始まる。利便性が高まれば一気に普及するはず」と強気の構えを崩していない。
[時事通信社]
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