イスラエルのシリア猛攻撃 「最悪の事態」を想定 専門家の見方
【エルサレムAFP=時事】シリアのバッシャール・アサド政権崩壊後、同国の軍事拠点をイスラエルが執拗(しつよう)に爆撃し、占領下のゴラン高原の緩衝地帯に侵攻している。こうしたイスラエルの行動について専門家らは、アサド家の支配終焉(しゅうえん)に伴い、最悪の事態が招かれることへの懸念が背景にあるとの見方を示した。≪写真はシリアとの緩衝地帯からゴラン高原のマジャルシャムスに帰還するイスラエル軍の車両≫
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東専門家、ヨッシ・メケルバーグ氏は、「イスラエル政府は紛れもなく、最悪のシナリオを想定して行動している」と語る。
複数の専門家は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相はアサド氏について、イスラエルの宿敵であるイランやレバノンの武装組織ヒズボラと同盟関係にあったにもかかわらず、統治を続けてもシリアにとって最悪の選択肢とはならなかったと見ていたようだと指摘する。アサド氏の退陣が混乱につながるとの恐れがあったためだ。
そして今、イスラエルの指導者らは、混乱の始まりをすでに懸念しているように見える。
ネタニヤフ氏は先週末、1974年のイスラエル、シリア間の兵力引き離し協定を無効と宣言し、停戦ライン沿いにある国連監視下の緩衝地帯に軍を派遣した。
国連は、緩衝地帯への侵攻は兵力引き離し協定違反だとして非難。イスラエルの後ろ盾である米国は、侵攻は「一時的」なものでなければならないとくぎを刺した。
イスラエルはまた、シリア国内の化学兵器の貯蔵施設や防空システムといった軍事資産が反体制派の手に渡らないよう、海空から数百回にわたって攻撃した。
国連シリア担当特使のゲイル・ペダーセン氏はこれに対し、即時の爆撃停止を求めた。
イスラエルのシンクタンク、国家安全保障研究所(INSS)のダニー・シトリノウィッツ氏は、「ミサイルから航空機、(軍の)科学研究センターまで、シリアにおいて戦略的なものはすべて爆撃されるだろう」と予想。「(国際テロ組織)アルカイダか、イスラム過激派組織『イスラム国(IS)』か、シリア側でいずれの組織が対抗してくるか分からないが、われわれは市民を守る準備をしなければならない」と話した。
イスラエル・カッツ国防相は、軍はシリア南部に「武器やテロの脅威のない『安全な防衛地帯』」を確保するよう命令を受けていると述べた。
イスラエルのメイル・アミト諜報テロ情報センターの専門家で、元情報将校のアビブ・オレグ氏は、同国の目先の関心事は、化学兵器など戦略兵器の備蓄だと指摘。シリアの反体制派の一部はジハード(聖戦)主義を掲げていた過去があり、「そうした兵器が彼らの手に渡った場合、何をするか分からない」と話した。
ただ、メケルバーグ氏は想定される攻撃の強度と範囲については疑問が残るとし、「(シリア)新政府との橋を築くための最良のやり方ではない」と話した。
■クルド人とドルーズ派
シリアの将来について楽観的な見方がある一方で、一部のイスラエルの専門家は、同国は分裂状態に陥るとの見方を示している。
元海軍将校で安全保障専門家のエヤル・ピンコ氏は、シリアは民族・宗教単位に分裂すると予想。「統一したシリアの存在はなくなるとみている」と語った。実際にそうなれば、イスラエルとしては、特定の民族集団との協力を選択することになるかもしれない。
イスラエル外相のギデオン・サール氏は9日、シリアのクルド人は「安定勢力」であり、国際社会は擁護する必要があると主張した。サール氏は以前、北東部のクルド人、南部のイスラム教ドルーズ派との協力に言及していた。
ピンコ氏は、「彼ら(クルド人やドルーズ派)がシリアを支配するとは思わないが、イスラエルは、和平を望む者との間で和平を試みるだろう」と語った。
一方、メケルバーグ氏は、ゴラン高原での軍事行動や特定の民族を優遇する動きは将来の対シリア関係を損なう誤った動きと主張。「そうした方向で進む公算が大きいが、それは間違いだ。分裂を助長すべきではなく、有益ではない」と話した。
■核交渉の行方は
シリアは数十年にわたってイランの親密な同盟国であり、イラン製の武器をヒズボラに供給する「陸橋」のような存在だった。
最近の紛争でイスラエル軍から打撃を受けたヒズボラは、シリアとのつながりを断たれることで、再武装が極めて困難になる可能性がある。
シトリノウィッツ氏は、「シリアは要だ。シリアがイランの影響下から脱すれば、『抵抗の枢軸』は事実上存在しなくなると言っても過言ではない」と述べた。
ピンコ氏も、「ヒズボラ、シリア、イラン、イラクの民兵(シーア派)から成る枢軸がもたらすリスクはるかに低くなる」と予測する。
イスラエルの戦略立案者にとっては、シリア弱体化の影響を受けたイランがどう反応するかが問題だ。
シトリノウィッツ氏は、イランは「(核)爆弾(の開発)を急ぐ」かもしれないと言う。
オレグ氏も、その点がイスラエルの戦略面での主要な懸念だとし、「核保有国イランに対応するとなると、それは全く異なるゲームとなる」と語った。
国際原子力機関(IAEA)は先週公表した報告書で、イランが兵器級に近い高濃縮ウランの大幅な生産拡大を計画していると分析している。
イランが核弾頭の製造を目指せば、イスラエルは軍事行動を選択する可能性がある。
ただ、一部の専門家は異なる見解を示している。それは、弱体化したイランが交渉に応じる可能性があるとの見方だ。
メケルバーグ氏はこう提案する。「明確なメッセージを送るべきだ。抵抗の枢軸は大幅に弱体化し、シリアを失った。交渉を始めようではないか、と」【翻訳編集AFPBBNews】
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