米国で高まる「自国優先」=対中摩擦、同盟国・日本にも飛び火
米大統領選で共和党のトランプ前大統領の勝利が浮き彫りにしたのは、米国内での「自国優先」の内向き意識の高まりだ。トランプ氏は、電気自動車(EV)や半導体、重要鉱物などの輸出で経済的な威圧を強める中国に対し高率関税を武器に強硬姿勢を強めてきた。その矛先は同盟国・日本にも向けられる。世界経済への下押し圧力や日本企業による対米戦略の不透明感が増しそうだ。
「地政学的な分断、貿易摩擦の先に勝者はいない」。国際通貨基金(IMF)のスリニバーサンアジア太平洋局長は1日、時事通信のインタビューでこう強調した。
選挙戦で展開された民主党のハリス副大統領とトランプ氏の主張は、自国の産業や雇用を保護し、中国との対立を増幅させるものだった。
巨額の補助金によるEVなどの過剰な生産、重要資源の輸出規制で貿易の「武器化」を強める中国。先進7カ国(G7)の首脳はこうした振る舞いは世界経済に「有害だ」と非難するが、その一員の米国や欧州連合(EU)も中国に対する関税措置で応酬。国際的なルールの下で「自由」であるはずの貿易は各所で目詰まりを起こしている。
通商政策の監視機関グローバル・トレード・アラートによると、各国政府が通商政策に介入した「阻害措置」は2024年、既に2800件を超え、09年の10倍以上に膨らんだ。
トランプ氏は一律10~20%、中国に対しては60%の関税をかけると主張。さらに日本の自動車メーカーが多く進出するメキシコからの輸入車に対し、100~200%の関税を課すとも表明し、影響は免れない。「貿易戦争」がもたらす生産減少は、世界の経済成長を後退させ続ける。
経済安全保障を理由に自国産業を守る自国優先主義は、日本の企業活動への脅威としても現れた。日本製鉄によるUSスチール買収計画では、阻止を掲げるトランプ氏だけでなく、民主党のバイデン大統領やハリス氏も反対を表明。選挙後に決着が持ち越された買収計画がトランプ氏の判断に左右される可能性もある。こうした状況に日鉄以外でも「同様の事態が起こり得る」(金融筋)と、日本企業による今後のM&A(合併・買収)への懸念の声も出ており、保護主義の暴走へ警戒感は高まっている。
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