2024-03-08 18:44World eye

「来るな」 ロシアのため戦うネパール人傭兵、同郷人に警告

【カトマンズ(ネパール)AFP=時事】ウクライナで、ロシアのために戦っているネパール人傭兵(ようへい)がいる。彼らはロシアのパスポートと報酬欲しさに故郷を後にするが、負傷した兵士たちは「来るな」と同郷人に警告している。≪写真はネパールの首都カトマンズの通りを歩くスリヤ・シャルマさん≫
 傭兵に採用されれば、ネパールでの年収の2年分を1か月で稼げる。ただし条件は過酷で、死傷者も多い。
 「戦友が目の前で死ぬのを見た」と、スリヤ・シャルマ(24)は話した。法的な理由から、名前は仮名だ。
 「ネパール人には戦争がどれほど恐ろしいか、おそらく想像すらつかないだろう」
 ロシア軍によって基本的な訓練を施された直後、ウクライナ東部の前線に向かう途中で、部隊は攻撃にさらされた。「爆弾と銃弾の雨の中、これでもうおしまいだと思った」
 「死ぬために行ったようなものだ」と言う。
 ヒマラヤ山脈に囲まれ、極めて貧しい国であるネパールは、国外の戦争に従軍する勇猛な兵士を長く輩出してきた。中でも、英国軍に属するグルカ兵が有名だ。
 ただし、外国軍に傭兵として応募することが合法となるのは、英国やインドとのように、政府間で取り決めがある場合に限られる。
 一方、ロシアはウクライナとの戦争で、早い時期から傭兵を活用してきた。昨年6月に反乱を起こす前の民間軍事会社ワグネルもそうだ。
 ロシアもウクライナも、どの程度の規模の外国人部隊を自国軍に組み入れているか公表はしないとみられる。捕虜の人数も明かされることはない。
 一方、ネパール政府は、2年前のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、200人超がロシア軍に登録されたと公表している。
 シャルマは、実際の人数はその10倍の可能性があると考えている。傭兵となるのは学生や元兵士。毛沢東主義派の元戦闘員もいる。
 シャルマは、「私たちが参加したのは早い時期だった。今では2500~3000人のネパール人がいるのではないか」と語った。
 ■魅力的な報酬
 外務省は、ウクライナでネパール人少なくとも12人が死亡し、5人が捕虜になっているとしている。
 戦場から戻ったネパール兵たちは、実際の死者数はやはりさらに多いと言う。国内メディアによれば、ウクライナ軍に従軍しているネパール人もいる。
 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は傭兵を募るため、1か月当たり最大2200米ドル(約33万円)の報酬に加え、就労が可能になる市民権の付与を提示している。
 世界銀行によればネパールの1人当たり国内総生産(GDP)は1300ドル(約20万円)強と、アジアで最も低い部類に属する。一部の人にとっては魅力的な提案に映る。
 動画アプリ「ティックトック」で、ロシアでネパール出身の新兵が訓練を受けている動画を見て、一人の元兵士が昨年7月、傭兵登録した。
 違法のため匿名を希望した39歳のその元兵士はAFPに対し、「これは戦争だ。われわれはリスクを取ろうとしている」と話した。
 元兵士はネパール軍に10年超服務した後、中東ドバイの警察でも勤務経験がある。ウクライナでは6か月間従軍し、約1万5000ドル(約225万円)を手にした。負傷したため帰国せざるを得ず、稼いだ金は家を建てるために使っている。
 「ネパール国内に良い働き口があれば誰も行かないだろう」と語った。
 シャルマの足には金属片が入り込んでいる。1足ごとに強烈な痛みが走る。ネパール人の代理人にだまされたと言う。
 毎年、国外での就労を目指すネパール人は数十万人に上る。公式な数字は40万人となっているが、違法就労も多い。大勢が渡航手続きを手伝ってもらうため数千ドルを代理人に支払っている。
 シャルマは借金をして学生ビザでロシアに渡った。だが労働許可が下りず、見つけた仕事は戦うことだけだった。
 「借金の返済があったため、送金はできなかった」と、ネパールの首都カトマンズの貸部屋で言った。
 ■「映画のよう」
 軍隊経験はなかったが、「報酬が良いと聞いていたので軍隊入りを選んだ。そうしたかったわけではなく、状況がそうさせた」と話した。
 2か月にわたる基本訓練を受ける前に健康診断を受けた。
 「私の場合は政府に雇われたが、民兵勢力に属するネパール人もいると聞いた」
 新兵のうち15人がネパール人だった。朝6時に起床し、訓練を始める。「射撃位置や塹壕(ざんごう)の掘り方、無人機の狙い方を学んだ」
 ただ「言葉が問題だった」と振り返る。「彼ら(ロシア人)の指示が理解できない。戦場ではそれが命取りになる」
 大半がロシア人で構成され、ネパール人は6人のシャルマの部隊はウクライナの前線に送り込まれたが、東部クピャンスクに到達する前に待ち伏せ攻撃に遭った。
 爆発で隊員数人が死に、シャルマも手足に傷を負った。
 「映画のようだった」
 数か月入院して治癒しかけた頃、在モスクワのネパール大使館に助けを求めた。
 前線には「とても戻ることはできなかった」と、シャルマは言った。「刑務所行きかネパールに帰るかのどちらかしかないと考え、国に帰る方のリスクを取った」
 ■「準備しても無駄」
 ネパールは市民が兵士として動員されるのを防ぐため、いかなる形であれロシアやウクライナで働くことを禁止している。
 これまでに少なくとも12人が、ロシアのために戦う要員を送り込んだとして逮捕されている。
 警察によれば、こうした人々はインドかアラブ首長国連邦(UAE)経由で派遣され、当局をだますため虚偽の申告をするよう指導される。
 ナラヤン・プラカシュ・サウド外相はAFPに、「ネパールは非同盟と平和を信奉する国だ」と語った。
 「わが国はロシアと協定を結んでおらず、派遣された人々の即時引き渡しを要求している」
 この件についてカトマンズのロシア大使館にコメントを求めたが、返答は得られなかった。
 ロシアの病院のベッド上からAFPの電話取材に応じた、負傷したあるネパール人(27)は、同郷人に向け、誘惑に屈しないよう警告した。
 「どれだけ準備しようと、爆弾を落とされたり無人機攻撃を受けたりしたら役に立たない。来るな、と伝えたい」 (敬称略)【翻訳編集AFPBBNews】

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