どん底から不屈の復活=照ノ富士、波乱の土俵人生
覚悟を決めていたはずだ。横綱昇進時に「自分の生き方で証明したい」と決意を示した照ノ富士。古傷を抱える両膝の手術を受け、腰痛や持病の糖尿病にも苦しんだ。横綱在位は21場所だったが、不屈の闘志を見せた土俵人生は多くの人の心を打った。
最初に入門した間垣部屋が閉鎖となり、横綱日馬富士らがいた伊勢ケ浜部屋への転属が契機となった。涙を流すほどの厳しい稽古で才能が一気に開花。初優勝した2015年夏場所後に平成生まれ初の大関に。横綱昇進も時間の問題と思われた。
話し好きで、物おじしない性格。その一方、若さと勢いに任せた危うさも感じさせた。当時の兄弟子で、付け人を務めていた元幕下駿馬の中板秀二さんは「当時は『何をやっても勝てる、飲み歩いても勝てる』という自信があった」と振り返る。
巨体を生かし、強引に相手を引っ張り込む取り口が災いして右膝を負傷。さらに左膝も痛めた上、内臓疾患も重なって番付を転がり落ちた。「何を言っても、前向きになれない状態だった」と中板さん。何度も師匠に引退を願い出たという。
どん底を知った照ノ富士は変わった。序二段で再出発。元大関のプライドを捨て、支度部屋の片隅で一人、若い衆と同じ黒まわしを締めた。「いつやめても惜しくはない。納得できる終わり方をしたい」。真摯(しんし)に相撲に向き合って最高位を極め、第一人者の白鵬が引退した後の角界を一人横綱として支えた。
21年8月に日本国籍を取得した際には「自分の学んできたことを、次に伝えていける」と先を見据えた。波乱に満ちた現役生活は、親方としての第二の相撲人生に深みを加えるに違いない。
[時事通信社]
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