「泡沫」急浮上、TikTok不正か=ロシアの影、政治不信鮮明―ルーマニア大統領選
【ベルリン時事】東欧ルーマニアで、8日に決選投票を控えていた大統領選挙が、憲法裁判所の判断で急きょ中止され、候補者の届け出からやり直す異例の事態となっている。中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が不正利用されたもようで、先月行われた第1回投票では泡沫(ほうまつ)扱いされていた無所属候補が首位に立った。有権者に広がる深刻な政治不信も鮮明になり、混乱が続いている。
渦中の候補はカリン・ジョルジェスク氏(62)。国連機関や環境省でキャリアを積んだ学識者とされ、選挙戦では伝統重視や「ルーマニア第一」を掲げた。新型コロナウイルスの存在を否定し、人類による月面着陸を「でっち上げ」と主張したこともある。
10月までは多くの世論調査でジョルジェスク氏の支持率は1%に満たなかった。しかし、11月24日の第1回投票で、有力候補とされていたチョラク首相らを抑え、約23%の得票率でトップに躍り出た。現地メディアも「ジョルジェスク氏とは誰か」と報じるサプライズだった。
実態を調査したルーマニア当局は、ジョルジェスク氏の情報をTikTokで拡散したインフルエンサーらに計38万1000ドル(約5700万円)が支払われていたことを把握。約2万5000のTikTokアカウントを利用した大規模な選挙運動が展開されたと報告した。
資金源を調べたところ、暗号資産事業を手掛ける男が容疑者として浮上。検察は今月7日、選挙違反やマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いで、男の関係先を家宅捜索した。男はジョルジェスク氏と面識はなく、理念に共感したと主張している。
ジョルジェスク氏はロシアのプーチン大統領を「愛国者」と呼び、ロシアの侵攻を受けるウクライナ支援の停止を訴えていた。こうした経緯から「ロシアの関与」(チョラク氏)を疑う見方もある。
一方、投票データが改ざんされた形跡はなく、多くの有権者がジョルジェスク氏に一票を投じたことは事実だ。今回の事態は政治への潜在的な不満が表れたともいえる。ジョルジェスク氏は選挙のやり直しについて、民主主義を攻撃する「クーデター」だと訴え、支持者に当初の予定通り投票所に足を運ぶよう呼び掛けた。
[時事通信社]
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