トランプ氏復権させた閉塞感=米大統領選
米大統領選でトランプ前大統領に勝利をもたらしたものは、有権者がトランプ氏に対して抱く不安よりも、生活の窮状や閉塞(へいそく)感への不満が想像を超えて上回っていたことにほかならない。ギャラップ社の10月の調査によると、75%が米国の進む方向は間違っていると感じている。
トランプ氏は2016年の大統領選で政界に登場して以来、「米国を再び偉大にする」と一貫して唱えてきた。過去における米国の黄金時代を理想像として、そこに立ち返ることで現状打破を図るという呼び掛けだ。
「輸入品に10~20%の関税を課す」「2000万人の不法移民を国外追放する」といった主張は荒唐無稽に聞こえるが、物価上昇やリベラルな価値観の押し付けにうんざりしていた人々の耳には心地よく響いた。
敗れたハリス副大統領はトランプ氏を「復古主義」と批判し、自らの生い立ちの多様性を前面に出して「未来に向けて前進する」と訴えた。だが、政策に具体性はなく、バイデン大統領の「代打」として立った短期決戦で知名度の低さも克服できなかった。
トランプ氏の異端ぶりは四つの刑事事件で起訴され、うち一つで有罪評決を下されたことからも明白だ。ハリス陣営は「民主主義の脅威」と非難し続けたが、トランプ氏は逆風をバネに支持固めを図った。
「米国を再び偉大にする」というスローガンは、1980年にレーガン元大統領が最初に用いた。トランプ氏が迫られているのは、皮肉にもレーガン政権が推進した新自由主義によって疲弊した中間層や労働者階級へのてこ入れだ。
しかし、企業などへの減税を軸にした処方箋は格差など構造的な問題の解決にはならず、財政悪化を招く恐れがある。さらに同氏の「米国第一主義」が、通商や安全保障の分野で同盟・友好国と摩擦を生むのは避けられないだろう。
トランプ氏は6日、支持者の前で「私たちはこの国を癒やす。全てを修復する」と約束した。しかし、政権1期目のように大統領権力を絶対視して乱用すれば、過渡期にある米国を復活させるどころか、衰えを加速させる結果となりかねない。
[時事通信社]
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