「私たちは助け合っている」=ハリケーン被災地の南部州―「政争の具」に冷ややか・米大統領選
大型ハリケーン「ヘリーン」が9月下旬に上陸し、甚大な被害が出た米南部ジョージア州などで今月半ば、11月の大統領選の期日前投票が始まった。被災地支援の取り組みを巡っては、共和党のトランプ前大統領と民主党のハリス副大統領が非難の応酬を重ね、「政争の具」と化している。被災者は何を思うのか。
15日、ジョージア州南端のラウンズ郡バルドスタには、ハリケーンの深い爪痕が残っていた。道路のあちこちにがれきが山積みされ、温暖な地に多い大木オークが幾つもなぎ倒されたまま。一部の商業施設も営業を再開していない。
◇「小さな政府を」
バルドスタ市内の郡選管事務所には、この日始まった期日前投票のため、朝から有権者がひっきりなしに出入りしていた。退役軍人のジョーイ・ウィリアムズさん(61)が近くの空き地で、トランプ陣営の帽子などを売っている。「民主党が『ハリス』の看板を立てないよう見張っている」という。
トランプ氏は選挙集会などで「(政府は)災害予算を不法移民のために使った」と根拠のない情報を拡散。ハリス氏は「被災者を不安に陥れている」と非難し、被害が選挙の流れを左右する「オクトーバー・サプライズ(10月の驚き)」に変貌しないよう神経をとがらせている。
トランプ氏の主張について「真偽は知らない」というウィリアムズさん。「私は恩給生活だから、政府が必要以上に出費すれば恩給が減る。政府は小さくていい。ビジネスマンだったトランプは、やり方を知っている」と答えた。
◇頼れるボランティア
友人と投票に訪れた黒人女性ジェニファー・コープランドさん(60)は、ハリケーンの影響で数日間、電気のない自宅に閉じ込められた。「一刻も早く世の中を変えたいという気持ちで投票した。カマラ(ハリス氏)が勝てば政府は私たちを助けてくれて、暮らしは良くなる」と話した。
ただ、孤立したコープランドさんに食料を届け、倒木を除去したのは、連邦緊急事態管理庁(FEMA)などの政府機関でも民主党や共和党の関係者でもなく、近隣のボランティアたちだった。
投票所から数十メートル離れた地元企業の駐車場で昼、メキシコ料理のタコスが被災者に振る舞われた。用意された250人分は瞬く間になくなった。この企業に勤めるロブ・シモンズさん(29)は「私の被害は小さかったが、隣人は手を差し伸べてくれた。危機を乗り越えるため、誰であれ互いに助け合っている。国の指導者らにいがみ合う余裕はあるのか」と冷ややかに語った。
◇「投票に行かない」
バルドスタから北に車で1時間余。被害がより大きいコフィー郡ダグラスでは、米国赤十字が郡の施設で被災者らの避難所を運営していた。同じ建物内に期日前投票所が隣接している。
しかし、避難所暮らしのランディ・ジラードさん(60)は「投票には行かない」。ホームレスという自らの境遇が変わるとは思えないからだ。3年前に失業し、家族とも絶縁状態という。
「誰が大統領になっても、国はわれわれを助けないと思う。今一番の気がかりは、市内の復興が進んで避難所が近く閉鎖されてしまうこと」
行く当てはあるの?
「路上に戻るさ」。
[時事通信社]
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