日本出身僧、仏教復興に奮闘=差別からの解放目指し半世紀―佐々井秀嶺さん「平等」訴え・インド
【ナグプール(インド)時事】日本からインドへ渡った僧侶佐々井秀嶺さん(89)が、「全ての人は平等」と唱える仏教復興のため奮闘を続けている。インド特有の身分制度カーストに基づく差別から民衆を解放しようと半世紀以上身をささげてきた。
「ブッダの説いた道に従う」。10月10~12日、中部ナグプールで行われた「大改宗式」。佐々井さんの迫力ある声に続き、唱和が会場に響いた。式にはインド仏教界最高指導者の一人である佐々井さんの姿を見ようと、各地から改宗者だけで約1万5000人が集まり、日本からも15人が得度のため参列した。
佐々井さんは1935年、現在の岡山県新見市に生まれた。青年期に女性への執着に苦しみ、幾度となく自ら命を絶とうとした末、60年に得度。タイを経て単身渡った仏教発祥の地インドで、集落の井戸を使わせてもらえないなどカースト下層民の過酷な生き方を目の当たりにし、差別と闘うことを決意した。
インドでは、旧被差別階層出身の初代法相アンベードカルがカーストと密接に結び付くヒンズー教から仏教への改宗運動を開始。死去2カ月前の56年10月にナグプールで数十万人を一斉に改宗させた。佐々井さんは、現地仏教界でアンベードカルの後継者と見なされている。
インド国籍を取得し、2003年には、ヒンズー教が支配的な同国で少数派の意見を反映させるための政府の委員会に仏教徒代表として参画。布教のほか、ヒンズー教徒の管理下にある聖地の寺院奪還運動などにも取り組んできた。
11年の国勢調査によると、仏教徒人口は全人口の0.7%の約840万人。ただ、政府の優遇措置を受けるためあえてヒンズー教徒を名乗る人も多く、実際は1億5000万人に上ると佐々井さんは見積もる。
憲法上、カーストに基づく差別は禁じられているが、佐々井さんは、経済成長が続く今でも差別は「十分ある」と断言。ヒンズー至上主義の濃いモディ政権は、学費を値上げすることで貧困層が多い仏教徒の地位向上を阻んでいると話す。
清貧を貫き、食事は信者からの供物のみ。「自分が極楽浄土に行くと報い(の気持ち)を持ったら駄目。ただ、一切の人を仏法に導く(のが務め)」と語った。
[時事通信社]
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