「安全な場所などない」 イスラエル軍の攻撃に揺れるキリスト教徒の村 レバノン
【アイト(レバノン)AFP=時事】レバノン北部の村に住むエリー・アルワンさん(42)は、南部から避難してきたイスラム教シーア派の家族を自宅に受け入れた。ここならば安全だと思っていた。≪写真は、イスラエル軍の攻撃を受けたレバノン北部のキリスト教徒の村アイト≫
しかし14日、アルワンさんの村もイスラエル軍の空爆に遭い、シーア派の家族は全員が犠牲となった。4階建てだった家は破壊され、アルワンさんの母親も負傷した。「わが家で虐殺が起きたんだ」とアルワンさんは言った。
北レバノン県ズガルタ地区にあるアイト村は、キリスト教徒が多数を占める。これまで、シーア派組織ヒズボラを主に標的とするイスラエル軍の攻撃は受けたことはなく、平和だった。
ところがレバノンの国営通信社NNAによると、今回初めて受けた攻撃で、南部からの避難民を含む23人が殺害された。うち、12人が女性、2人は子どもだった。
全員が殺害されたシーア派の家族は、アルワンさんの15年来の知人だった。「彼らはちゃんとした人たち…家族だった」。がれきの表面に残った血痕を指さしながらアルワンさんは言った。「友人として彼らを迎え入れたんだ」
地元議員や治安当局者の情報によると、今回の空爆は避難していた家族を訪れたヒズボラ関係者を標的にしたものだったとみられている。
攻撃はレバノン北部全域に衝撃を与え、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)からは徹底した独立調査を求める声が上がった。
国境を挟んだイスラエルとヒズボラの1年に及ぶ衝突は、9月23日にイスラエル軍がレバノン東部、南部、そして首都ベイルート南郊のヒズボラ拠点への爆撃を激増させたことでエスカレートした。
多くの人が、キリスト教徒の村々を含むレバノンの山岳地帯に避難したが、避難民を受け入れる側もその代償を恐れるようになった。
■「もう避難民を受け入れない」
アルワンさん宅のすぐ隣に住む兄弟のサーキスさんは「私たちはキリスト教徒で、キリスト教は寛容を教えている。だが、今では教訓を学んだ。もう家族の家に誰かを受け入れることはしない」とAFPに語る。
サーキスさんは具体的な組織名は挙げなかったものの、イランの支援を受けるヒズボラが、レバノンをイスラエルとの戦争に引きずり込んだことに怒りを示し、イスラエルの主要な同盟国である米国には「かなわない」と述べた。
教会の広場のそばに立っていた高齢の女性は、「イスラエル軍にいつ攻撃されるのかと常に恐怖を感じている。ヒズボラの指揮官がどこにいようと、イスラエル軍は狙うはずだから」と不安を口にする。
だが、話が避難民に及ぶと、その声には同情がにじんだ。「かわいそうに。安全な場所に逃げたはずなのに。今や安全な場所などどこにもない」【翻訳編集AFPBBNews】
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