ガザ住民、「普通でいられない」=初めて犯した罪苦悩―子供たちのイスラエル憎悪
パレスチナ自治区ガザで続くイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘は7日で1年を迎える。終わりが見えない死と隣り合わせの日々の中、ガザの市民生活は様変わりした。「普通でいられる人間なんて誰もいない」。住民男性は時事通信の電話取材に力なく語った。
◇過去の自分はいない
「私の魂は180度変わってしまった」。北部ガザ市で暮らす男性(33)は、そう切り出した。菓子工場を営み、暮らしに余裕はあったが、昨年10月の衝突後は避難してきた親戚ら約50人を養う「大黒柱」となった。食料は不足し物価が高騰する中、今年の初夏に小麦粉が底を突いて1カ月。「あすはパンがあるよ」など、空腹で泣きじゃくる息子たちをなだめる言葉も尽きた。近所では餓死者も出た。
見るに見かねた男性は6月、弟たちを連れてパン店に侵入し小麦粉が入った袋を一人一つずつ奪って、家に持ち帰った。近所の子供たちにお菓子をただで配っていた過去の自分はもういない。初めて犯罪に手を染めた後悔の念にさいなまれている。「二度と盗みはしない」と誓ったが、息子らが空腹で苦しむ姿を想像すると今も心が揺れ動くという。
男性は「3者がガザの人々を殺している」と指摘した。イスラエルと、戦争に住民を巻き込んだハマス、そして国際社会からの支援物資を横取りして高値で売り付ける「戦争商人」だという。ガザでは生活苦から略奪も後を絶たず、社会秩序の崩壊が深刻になっている。
◇いつか爆発する地雷
南部ハンユニスの会社員アブアフマドさん(36)は「子供らしさがなくなってしまった」と息子の変化に心を痛めている。イスラエル軍の攻撃が続き、避難先を6回変えた。学校の授業はなくなり、子供の同級生が亡くなった。道には遺体が転がり、その情景は大人でも耐え難い。子供たちの表情には、「悲しみと不安、そして怒り」が浮かんでいるという。
13歳の長男は「イスラエルを焼き払ってやる」と言うようになった。「人生の掛け替えのない日々を奪われた世代は、それを忘れないし許さない。そして、報復に出る」とアブアフマドさんは語る。今回の戦争で、ガザの子供たちの多くが「いつか爆発する地雷」になったと見ている。
紛争の精神的影響に詳しいエジプト・カイロ大のフェクリ・イトル教授(心理学)は、戦時下の「悲劇的現実」の中で、人々は社会規範を逸脱した行動に出ることがあると指摘する。暴力の連鎖を断ち切るためには、停戦を実現し、ガザ市民に精神的ケアを施すとともに「(殉教を賛美するハマスの)イスラム主義に基づく政治を終わらせなければならない」と強調した。
[時事通信社]
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