数奇な運命たどった「みらい」=原子力船「むつ」から再生―福島原発調査も、来年度運用に幕〔66°33′N=北極が教えるみらい〕
海洋地球研究船「みらい」の船首には、うっすらと「むつ」の文字が見える。1974年に放射線漏れ事故を起こした原子力船「むつ」の名残だ。むつは長い「幽閉」の末、原子炉を撤去されてみらいへと生まれ変わり、その後27年間で200回以上の観測航海を実施。東京電力福島第1原子力発電所の事故では、海洋汚染の調査も行った。みらいは8月26日、青森県むつ市関根浜港から北極航海に出航した。
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◇初臨界で放射線漏れ
将来の原子力船時代に備えるという国家プロジェクトの下、むつは69年に進水した。むつ市大湊港で試運転に入ろうとした時、漁業関係者が湾内での原子炉運転に反対。100隻以上の漁船でむつを包囲した。
むつは強風で漁船が避難した隙を突いて出港し、太平洋上で原子炉の出力上昇試験を行った。しかし、初めて臨界に達した直後、放射線漏れが発生。注目が大きかっただけに事故は大きく報道され、むつは帰港できずに漂流を余儀なくされた。
長崎県佐世保市で遮蔽(しゃへい)改修工事が行われたのは6年後。91年に4回の実験航海を行い、一応の「実績」を残したが、既に廃船が決まっていた。
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◇不思議な縁
「船体を切って原子炉を取り除き、新造した船尾部分と合体した」。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の本多牧生上席研究員は95年、むつ改造計画に携わった。観測機器や設備の選定などを担当。「新しい船を造る方が安いという批判もあったが、『むつを残したい』『有効利用したい』という思惑があったようだ」と振り返る。
みらいの甲板を歩くと、船体中央に接合部分が確認できる。船首に残る船名も「むつを知る人がノスタルジーに浸れるように、わざと残されている」(本多氏)という。
世界最大級の海洋観測船として完成したみらいは2011年の福島原発事故の際、洋上での放射性物質調査にも参加した。本多氏は「放射線漏れを起こして長い間『幽閉』されたむつがみらいとなり、福島の原発事故調査に動員されたことに不思議な縁を感じた」と語る。
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◇北極研究の転換点
むつとして進水してから55年。みらいは来年度、波乱に満ちた航海を終える。バトンを受け継ぐ、日本初の砕氷機能を持つ北極域研究船「みらいII」は、横浜市磯子区の造船所で建造が進む。
みらいとして最初の慣らし航海で首席研究員を務めた本多氏は、ほぼ毎年みらいに乗船し、海洋観測研究を行ってきた。「研究者としてみらいに育てられたようなもの」と思い入れも強い。
耐氷性能を持つみらいの就航により、日本は独自の北極観測が可能になった。JAMSTECの菊地隆・北極環境変動総合研究センター長は「みらいは日本の北極研究が大きく進展する最初の転換点になった」と話している。
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▽海洋地球研究船「みらい」
海洋地球研究船「みらい」 海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用する海洋調査船。日本初の原子力船「むつ」の原子炉をディーゼルエンジンに換装した上、新しく造った船体後部を接合して1997年に完成した。気象観測用のドップラーレーダーなどを備え、広域で長期間の観測・研究を可能にした。
[時事通信社]
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