蒼い北極、秘める可能性と危うさ=止まらぬ「気候崩壊」―過熱する資源・覇権争奪競争〔66°33′N=北極が教えるみらい〕
初めて見た北極の海は蒼(あお)かった。
南国の海の透き通った「青」ではなく、どこか底知れず、近寄り難さを感じる「蒼」だった。
2022年10月、ロシアのウクライナ侵攻が北極にもたらす影響を取材するため、ロシアと国境を接するノルウェー北部キルケネスを訪れた時だ。10メートルほどの川を隔てて向かい合う両国の境は、河口から真っすぐに伸び、北極の海を切り裂いていた。
「北極」と聞いて何が思い浮かぶだろうか。
氷に閉ざされた海、ホッキョクグマ、オーロラ―。北緯66度33分以北の北極圏では、他の地域の4倍の速さで温暖化が進む。30年代には夏季に海氷が完全に解け、蒼い北極が現れると予想される。気候変動はもはや「気候崩壊」の域に達している。
各国は北極の資源に引き寄せられ、覇権争いが幕を開けた。ウクライナ侵攻により、昨年はフィンランド、今年はスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に加盟。ロシアは「極地強国」を目指す中国などと手を組み、欧米に対抗する。北極は真っ二つに分断され、「NATOとロシアを隔てる線はかつてなく色濃くなった」と米シンクタンク「ウィルソンセンター」のマシュー・ブレグ国際研究員は語る。
一方、北極海を通る新航路の利用や、欧州と日本をつなぐ海底光通信ケーブルの敷設、石油や天然ガスなどの採掘が現実味を帯びてきた。中国やインド、南米、中東諸国は北極に進出し始めている。
日本もいち早く北極が秘める可能性に注目した。科学研究を通じて環境変化の解明に貢献。政府筋は「経済権益だけを主張しても北極圏諸国から相手にされない。科学研究による地道な貢献は、北極での発言権を高めるための布石だ」と話す。
日本は砕氷機能を持つ初の北極域研究船を建造中だ。26年完成予定の同船は「みらいII」と命名された。海外の研究者らを乗せる研究基盤としても活用され、北極での日本の国際的地位を高めると期待されている。
映画などの題材となった南極に比べ、北極の認知度は低かった。だが、分厚い雪氷が陸地を覆う南極と違い、海に氷が浮いている北極は温暖化の影響をはるかに強く受ける。
その分、「しっぺ返し」も大きい。
最近の研究では、日本の猛暑や豪雨、豪雪などの異常気象に北極の温暖化が関係していることが分かってきた。北極では海の酸性化が進み、貝やプランクトンの殻がもろくなる現象も発生。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の菊地隆・北極環境変動総合研究センター長は「北極で起きていることは、いずれ日本を含む各地で起きる可能性がある」と警告する。
北極を知れば、地球の未来が見える。時事通信記者は8月下旬から約1カ月間、来年度で運用を終える海洋地球研究船「みらい」の北極航海に同乗し、急激に変貌する北極の現状を取材。交錯する大国の思惑を探る「二つの北極」、北極が秘める可能性に焦点を当てる「蒼い北極」、科学研究の最前線に飛び込む「未来が見える場所」の3部構成で連載する。
[時事通信社]
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