USスチール買収、「政治」が翻弄=労組に配慮、正当化難しく―米
【ワシントン時事】バイデン米大統領が、安全保障上の懸念を理由に、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画の中止を命じた。ただ、同盟国企業による買収への安保懸念は正当化しにくい。米政府内で容認論が出る中でも強行した背景には、労働組合への配慮がある。日米企業の大型合併は「政治」に翻弄(ほんろう)された。
バイデン氏は「史上最も労組寄りの大統領」を自任。買収計画への反対姿勢を示し続け、反発する全米鉄鋼労組(USW)を支持してきた。
しかし、昨年11月の大統領選では、民主党の支持基盤である労働者票が、共和党に流れ、トランプ前大統領勝利の一因となった。バイデン氏には、これ以上の「民主党離れ」を防ぎたいとの「政治的な判断」(米コンサルタント)があったとみられている。
バイデン氏は声明で、買収計画は「国家安全保障と重要なサプライチェーン(供給網)にリスクをもたらす」と述べ、安保への懸念を強調した。
ただ、米シンクタンクのハドソン研究所によると、USスチールの取引先は自動車や建設など民間部門が多く、国防関連先に鉄鋼を供給していない。また、国防総省が必要とする鉄鋼は米生産量の3%にとどまり、米鉄鋼業界は十分な生産量を確保できているという。
同研究所は、安さを武器に世界の鉄鋼市場の支配を強める中国に対抗する必要性を強調。同盟国の日本からの投資を受け入れれば、「米国の安全保障を強化するだろう」と指摘していた。
カービー米大統領補佐官(広報担当)は3日、記者団に、買収阻止の判断は「鉄鋼の国内生産維持に関するものだ」と説明。日米関係の重要性は変わらないとの考えを示したが、日本政府は強く反発しており、禍根を残す形となった。
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