「ただ息子を返して」=遺族、教団への憎しみ今も―松本サリン事件から30年
オウム真理教による松本サリン事件から27日で30年となった。23歳だった会社員の息子を失った小林房枝さん(82)=静岡県掛川市=は「あっという間に過ぎてしまった」とつぶやく。教団の元幹部らに対し「ただ息子を返してよということだけ」と今も消えない憎しみをあらわにする。
息子の豊さんは、明るく人懐っこい性格で友人も多く、何より努力家だった。中学生の頃、ソニーの携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」が欲しいという豊さんに「(学校の成績で)5番以内に入ったら買ってあげる」と冗談めいて言うと、その学期内に実現させた。
豊さんは大学卒業後、東京の電機会社に就職。システムエンジニアになって2年目の1994年5月、電力装置設置のため長野県松本市へ長期出張した。「電力関連の仕事がしたい」と語っていた豊さんは仕事にやりがいを感じていた。
房枝さんが事件を知ったのは同年6月28日午前4時すぎ。消防署から電話で「息子さんが危篤です」と突然知らされた。夫の巌さん(88)と豊さんの元へ急いだが、対面したときには息を引き取っていた。「もう(頭が)真っ白で涙も出なかった」。翌年の元日、教団施設があった山梨県上九一色村(当時)でサリン生成の際の残留物質が検出されたとの新聞記事を読み、初めて教団の関与を知った。
事件後、同じ松本サリン事件の遺族たちに、民事訴訟を起こそうと手紙で呼び掛けた。「同志が欲しかった。心を打ち明けられて、思いを共にするような人たちと一緒になれたらと思った」と振り返る。東京に住む遺族らの働き掛けで弁護団も結成され、勝訴した。
元幹部の刑事裁判に対しては「とにかく死刑にしてほしい」との思いだけだった。ただ、2018年に松本智津夫元代表=執行時(63)=ら元幹部13人の死刑が執行されて以降も、「気持ちが晴れることはない」と話す。
事件を知らない世代も増えた。房枝さんは「風化は仕方のないこと」としつつ、「(教団の後継団体は)今も信者が増えていると聞く。やはり事件のことを伝えていかなければいけない」と力を込めた。
[時事通信社]
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