「戦争とは何か」伝え続け30年=基地の目前に立つ佐喜真美術館―沖縄慰霊の日
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の目の前にある佐喜真美術館が、戦後79年となる今年、開館から30年を迎える。戦争をテーマにした絵画や版画を中心に展示し、「戦争とは何か」を伝え続けてきた佐喜真道夫館長(78)は23日の沖縄慰霊の日を前に、「戦争と人間を深く感じ取り考える場として、地上戦の記憶を伝え続けたい」と語る。
戦後、家族が沖縄から疎開していた熊本県で生まれ育ち、進学で上京した佐喜真さん。沖縄戦について友人らと話す機会があったが、壮絶な地上戦をうまく伝えることができず、もどかしい思いをした。「沖縄の地上戦の悲惨さは頭の中でははっきり分かっていた。でも、当時はどう説明すればいいか知識がなく、悔しさが募った」と振り返る。
その後、ヒロシマの惨状を連作で描いた「原爆の図」の画家、丸木位里、俊夫妻作の「沖縄戦の図」に出合った。「俺の言いたいことが全部描いてある」と衝撃を受けたという。
鍼灸(しんきゅう)師だった佐喜真さんは治療を通じ、夫妻と懇意に。米軍にも働き掛け、祖母から受け継いだ普天間飛行場内の土地を返還させ、跡地に夫妻の絵を展示する美術館を建設した。
地上戦の惨劇を描いた「沖縄戦の図」は全14部の連作。妹の首に刃物を突き付ける少年、今にも息絶えそうな青白い顔をした少女、投降を試み日本兵に殺される住民―。戦争体験者から証言を直接聞き、モデルにもなってもらって描かれた絵は、戦争体験者が「全くこのままだった」「思わず兄を絵の中に探した」と口にするほどの力がある。
終戦から年月がたち、直接の戦争体験者が減ってゆく中、佐喜真館長は、戦闘が続くパレスチナ自治区ガザに触れ、「報道で見る様子と沖縄戦が重なる」と話す。
丸木位里氏が生前に語ったという「地上戦を知らない日本人は危ない。戦争の本質を取り逃がしてしまった」との言葉を紹介し、「世界中が戦争をしている今、この美術館の訴えるものの重要性は増している」と力を込めた佐喜真館長。「丸木さんの思いを伝える。それは、この美術館の祈りに近い」。鎮魂の日も、来場者を迎える。
[時事通信社]
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