2024-04-22 14:16政治

裏金直撃、揺れる保守王国=自・立、「天王山」に幹部動員―衆院島根1区補選ルポ

 全国有数の「保守王国」島根が揺れている。衆院島根1区補欠選挙は自民党の派閥裏金事件が生んだ強烈な逆風が陣営を直撃。1996年の小選挙区制導入以来初めて議席を失いかねないとの危機感が覆う。一方、立憲民主党は追い風を背に牙城を崩そうと必死。衆院3補選で唯一両党がぶつかる「天王山」だけに、双方とも幹部を投入して総力戦を展開している。(敬称略)
 ◇破られた名刺
 「大変厳しい。肌感覚で強く感じている」。自民新人の錦織功政は告示日の16日、松江市内の出陣式でこう悲壮感をあらわにした。東京から駆け付けた党選対委員長の小渕優子は、島根選出だった元首相・竹下登や元官房長官・青木幹雄(ともに故人)らを挙げ、「ふるさとを思う政治家の火を消さないで」と訴えた。
 補選は前衆院議長・細田博之の死去に伴う。細田は前回衆院選まで11回連続で当選したが、会長を務めた清和政策研究会(安倍派)は裏金事件で強い批判を浴びた。細田は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との親交も疑われた。錦織は演説で細田に触れない。
 関係者によると、錦織があいさつ回りを始めた当初、裏金問題に憤る有権者に名刺を破られた。細田の父吉蔵の代から続いてきた後援会の幹部はほとんど引退した。
 基本戦略は自民支持層への浸透。17日は街宣車に乗って漁協事務所や農協支店、中小企業の駐車場で街頭演説を重ねた。党本部職員が調整に加わり、業界団体に働き掛ける。ある県議は「地盤固めに徹する」と語った。
 自民は東京15区と長崎3区で不戦敗を選択した。政権の命運が懸かるため、島根では党を挙げた態勢を取る。幹事長の茂木敏充、元幹事長の石破茂、元環境相の小泉進次郎らも姿を見せた。
 首相(党総裁)の岸田文雄も21日にてこ入れに訪れ、計4カ所で車座対話と街頭演説を行った。ただ、内閣支持率は低迷。来援が勝利につながるかは微妙だ。「来なくていい」。陣営からはこんな声も漏れた。
 ◇最後の壁
 「裏金と統一教会問題で全国の有権者が怒りに燃えている。島根から声を上げ、政治を変えよう」。立民元職の亀井亜紀子は第一声でこう呼び掛け、「自民王国で勝てば、政権に大打撃を食らわすことができる」と力を込めた。
 亀井は2021年の前回衆院選で細田に小選挙区で敗れ、比例代表での復活当選もできなかった。この1年、中山間地域などで重ねた茶話会や青空集会は60回を超える。選挙戦では子育て支援に伴う国民負担増を批判し、「一刻も早く国会に戻って止めたい」と訴える。
 自民党時代に国土庁長官を務め、旧国民新党の幹事長だった父久興も動いた。05年に郵政民営化関連法に造反した際、圧倒的な「小泉旋風」にあらがって議席を確保した。「亀井党」とも言われたかつての支援者を精力的に回る。
 立民は代表の泉健太らが繰り返し島根入り。これまで推薦願いを出してこなかった企業や業界団体に攻勢を掛ける。自民関係者は「どんどん歩いている。遠慮がない」といら立ちを見せた。
 ただ、亀井が頼みの浮動票をどの程度獲得できるかは見えない。カギを握るのは投票率。陣営幹部は「有権者の盛り上がりはほとんどない」と不安を漏らす。
 「46都道府県で意識が変わっても、最後まで変わらないのが島根だ。皆、自民の政治家がいなくなったら大変だと思っている」。保守王国がいかに頑強か肌で知る関係者はこう指摘した。 
[時事通信社]

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