拉致被害者向けラジオに危機=設備更新で「妨害」対応できず
北朝鮮の拉致被害者に向けて日本から放送している短波ラジオ「しおかぜ」が危機に直面している。北朝鮮による妨害電波を常に受けているが、2024年度中に計画される送信施設の更新で、その間対策を講じることができなくなるためだ。放送する団体は「政府が拉致問題を『最重要課題』とする方針と矛盾している」と疑問視している。
しおかぜは民間の「特定失踪者問題調査会」が主体となり、05年に放送開始。拉致被害者に向けた家族からのメッセージや、日本内外のニュースなどを伝えている。
しおかぜは北朝鮮による妨害電波への対抗策として、同一の時間帯で二つの周波数から番組を流す「二重放送」を19年から実施している。しおかぜの発信拠点は、茨城県古河市のKDDI八俣送信所。施設の老朽化などによって送信機7機のうち2機を削減する予定で、作業中は二重放送ができない期間が生じる。
同送信所を海外向けラジオの拠点とするNHKは取材に「送信設備の移行作業は24年度後半から最大10カ月間の想定で実施予定。作業中の一定期間、しおかぜは1波での送信となる見通しだ」と認めた。
しおかぜに関し、12月4日の参院拉致問題特別委員会で松野博一官房長官(当時)は、「一時的に1波となるが、2波体制を継続するために必要な作業と認識している」と説明。ただ、政府内には一時的とはいえ「妨害のリスクがこれまで以上に高まる」(内閣官房関係者)との懸念がある。
短波ラジオは広範囲に電波を届けられることが強みで、不測の事態が生じた際に海外へ情報を伝える有力な手段となる。送信機はさらに削減される見通しで、調査会関係者は「短波放送は危機管理上も重要な役割がある。国の予算で送信機を作ることも考えるべきだ」と訴えている。
[時事通信社]
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