被災地発、次世代のカキ養殖　「過密」避け味向上、時短も―東日本大震災９年

　宮城県南三陸町の戸倉地区にあるカキの養殖場が、東日本大震災後、養殖いかだを７割減らす画期的な方法で復活を果たした。成長と環境保護の両立が評価され、２０１６年に国内で初の水産養殖管理協議会（ＡＳＣ）認証を取得、１９年には農林水産祭の天皇杯も受賞した。主導した後藤清広さん（５９）は「震災を経験したからこそ挑戦できた」と語り、若手への継承や地域的な広がりにも手応えを感じている。
　県漁業協同組合の志津川支所戸倉出張所では、津波で船や養殖設備などを全て失い、１２年、いかだを震災前の約１０００台から約２７０台まで減らして養殖を再開した。当初は、いかだの所有権を手放さなければならない漁師からの反対が根強かったという。

　仲間の説得に奔走した後藤さんを支えたのは、１１年８～１２月、試しに育てたカキが驚くほどのスピードで育ち、味も良くなったという結果だ。従来は、出荷の目安となるむき身の重さ約１５グラムに達するまで２～３年かかっていたが、稚貝が減ったことで１年で３０～４０グラムまで成長。出荷サイクルを短縮できた。若いカキは甘みが強く、生食用に高値で売れるという。
　後藤さんによると、志津川湾一帯は震災前もたびたび津波被害に見舞われた。その都度、養殖設備を強化して生産量を増やすことを繰り返した結果、約１０００台がひしめく過密養殖となり、成長は遅く味の評価も下がっていたという。後藤さんは「何十年もやってきたが、自然の回復力に初めて気付いた。品質を上げれば、生産量を減らしても収入は増やせると思った」と振り返る。

　いかだを減らして３年ほどたつと、機材が十分に整い、船の燃料代などの経費削減や労働時間の短縮と共に漁師たちの平均収入は伸び、現在では震災前の１．５倍に。ＡＳＣ認証を受け対外的な評価が高まると、３０代以下の就業者が震災前の２倍以上に増えた。
　後藤さんの長男伸弥さん（３５）もその１人。養殖の将来に希望が持てず、一時は別の仕事に就いたが、「味の違いにびっくり」し復帰。若手で試食イベントを企画するなど、地域の盛り上げにも積極的に取り組む。「今では自信を持って戸倉のカキを作っていると言える」と胸を張る。
　後藤さんは「若者はやりがいと誇りがあれば集まると痛感した。どん底を経験した戸倉でできたのだから、どこの地域でもできる可能性がある」と力を込めた。（2020/03/04-16:28）

An oyster farm in Miyagi Prefecture, northeastern Japan, has achieved a turnaround from the devastation of the March 2011 earthquake and tsunami in an unconventional way.
   The farm in the Togura district in the town of Minamisanriku resumed its operations in 2012 after reducing the number of oyster racks to some 270 from about 1,000.
   "The harsh experience of the disasters made it possible for us to take on the challenge," said Kiyohiro Goto, 59, who led the turnaround.
   At first, Goto's proposal to cut the number of racks drastically met with strong opposition from colleagues who did not want to relinquish their ownership rights.
   His efforts to convince colleagues were backed by the results of his trial conducted in August-December 2011 with a reduced number of racks. Oysters grew at a surprisingly rapid pace and tasted better.