日本の役割拡大へ高まる要求=対中国で変化する日米同盟-企画「矛と盾」(3)
攻撃能力を持つ米軍の「矛」と専守防衛を掲げる自衛隊の「盾」。中国の軍事的台頭で安全保障環境が刻一刻と変化する中、この役割分担が見直されつつある。「日米同盟の強化」を掲げる安倍政権は2015年、集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法を制定。自衛隊による米軍支援に道を開いた。
「相応の負担」を同盟国に求めるトランプ政権は、日本にさらなる役割拡大を要求。米国内では自衛隊と米軍の一体運用を進めるべきだとの意見が勢いを増す。一方、日本国内には懸念や抵抗感が根強い。日米同盟がかつて想定しなかった脅威が高まる今、同盟の在り方が問われている。
◇トランプ氏の不満
「ソニーのテレビで見るだけだ」。トランプ氏は6月、20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)に向かう直前、米メディアのインタビューで「米国が他国から攻撃を受けても日本は何もしない」と日米安保条約に強烈な不満を表明した。G20閉幕後の記者会見でも、条約に基づく防衛義務が「不公平だ」と主張。日本政府関係者を青ざめさせた。
中国の台頭に伴い、米国の力が相対的に後退する中、トランプ政権は同盟国に負担拡大を要求。在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)の特別協定をめぐって来年始まる改定交渉では、日本側に大幅な増額を突き付ける見通しだ。
◇新たな段階
米南部ノースカロライナ州にある海兵隊ニューリバー航空基地。日の丸を付けた真新しい垂直離着陸輸送機オスプレイが3機、整然と並んでいた。来年3月の日本での配備に向け、陸上自衛隊から派遣された隊員が操縦・整備訓練を受ける。基地を訪れたバーガー海兵隊総司令官は「自衛隊員と米兵が互いの機体を整備し、操縦していた。日米はバラバラではないと示す強烈な光景だった」と語る。
日本はオスプレイや最新鋭ステルス戦闘機F35など米国製武器を調達し、装備品の相互運用性を高めてきた。同じ装備品を使うことで米国とのより緊密な作戦連携を可能にするためだ。
米軍幹部は2国間の軍事協力には(1)衝突回避(2)協調(3)統合(一体化)(4)同期化-の4段階があり、「日米が真に中国に対抗するには現在の『協調』から『統合』のレベルに達する必要がある」と訴える。
◇リアルタイムの連携
自衛隊と米軍の「現場」は既に「矛と盾」の一体化に向けて動きだしている。
横田空軍基地には航空自衛隊と在日米空軍(第5空軍)の司令部が併設され、地下には双方が情報共有を行う調整所がある。米軍筋は「合同演習の際には、ここに日米司令部が設置されたと仮定して訓練が行われている」と明かす。
また、米空軍は作戦計画の策定や実施などを担う「航空宇宙作戦センター(AOC)」を横田基地に設置することを検討。在日米軍に一定の作戦統制権も与える見通しだ。
米軍筋は「AOCが設置されれば、在日米軍はハワイの司令部に逐一指示を仰ぐ必要はなくなり、自衛隊とリアルタイムの連携が可能になる」と語る。
◇日本の選択肢
一体運用について日本では「米国の戦争に巻き込まれる」「主権が失われる」といった強い懸念がある。実際、指揮系統が統合されれば、自衛隊は米軍指揮下に入る可能性もある。
ファネル元米海軍大佐は「中国の脅威は現実に存在し、決して米国がつくり上げた虚構ではない」と力説。「日米は共に中国に立ち向かって生き延びる必要があり、一体化は主従関係ではなく、相互依存関係の構築だ」と説明する。
日本が単独で中国の脅威に備えるには巨額の防衛費が必要になる。米軍との連携を進めることで装備品や設備の重複をなくし、双方に無駄のない形で抑止力を強化する-。ファネル氏は「これが最も費用対効果が高く、現実的な選択肢だ」と主張する。外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員も「現状では米国との同盟強化が日本の安全保障にとって最善策になるだろう」と話す。
「全ての同盟関係は安保環境に応じて変化していく」。ある米軍幹部はこう語り、日米同盟強化に期待をにじませた。(2019/08/23-08:01)
Spear and Shield (1): Integration of Japan, U.S. Forces
Three decades after the Cold War ended, the global security environment is beginning to change dramatically, with rapid military buildup by China and Russia threatening the United States' status as the world's sole superpower.
The administration of U.S. President Donald Trump is shifting the country's focus from the war on terror to competition with other major powers, particularly aiming to contain China.
In a series of three articles entitled "Spear and Shield," Jiji Press will report on the current state of the Japan-U.S. security alliance and trilateral cooperation among the two plus South Korea.
China's Rise Prompting Integration between Japan, U.S. Forces
最新ニュース
-
美浜原発3号機の運転再開=1カ月ぶり、配管損傷で―関電
-
豊昇龍、動じず迷わず=課題乗り越え一気前進―大相撲九州場所
-
中谷防衛相、年内訪韓=9年ぶり、韓国国防相と合意
-
自民、政活費廃止を了承=企業・団体献金禁止盛らず―規正法、年内再改正目指す
-
住友重機子会社に勧告=下請法違反、金型保管料不払い―公取委
写真特集
-
【野球】慶応大の4番打者・清原正吾
-
【競馬】女性騎手・藤田菜七子
-
日本人メダリスト〔パリパラリンピック〕
-
【近代五種】佐藤大宗〔パリ五輪〕
-
【アーティスティックスイミング】日本代表〔パリ五輪〕
-
【ゴルフ】山下美夢有〔パリ五輪〕
-
閉会式〔パリ五輪〕
-
レスリング〔パリ五輪〕