2021.05.26 07:15Nation

「核なき世界」へ被爆地と橋渡し オバマ氏広島訪問から5年、米で草の根の動き

 【ワシントン時事】オバマ元米大統領(59)が現職大統領として初めて被爆地・広島を訪問して27日で5年。オバマ氏が訴えた「核兵器のない世界」はいまだ遠く、国際社会が激動する中、「歴史的訪問」が話題に上ることも減っている。ただこの5年間、被爆地との相互理解を深める草の根の活動が米国内で始まり、小さくても確かな変化の兆しが見えてきた。
 ◇原爆全体の物語を
 米国の原爆開発「マンハッタン計画」の拠点となったニューメキシコ州ロスアラモス。ジュディス・スタウバーさんが2011年にロスアラモス歴史博物館の館長に就任してまず驚いたのが、広島と長崎に関する情報の少なさだった。
 「次の世代が批判的な目で物事を考えられるよう、原爆に関する全体のストーリー(物語)が必要だ」。そう考えたスタウバーさんは被爆地の情報を展示に取り入れるため、オバマ氏が広島を訪問した同じ16年に広島、長崎へ自ら足を運んだ。
 だが、活動はその後壁にぶつかる。被爆の惨状をありのままに伝えようと広島、長崎両市の協力で19年の開催を計画した「ヒロシマ・ナガサキ原爆展」が中止に追い込まれたのだ。博物館の運営組織から展示内容に異論が出たためで、スタウバーさんは「住民の理解を深める絶好の機会だったのに」と悔しがる。
 ◇元大統領の孫も活動
 スタウバーさんはこの騒動を機に館長を辞任。「人々が不快に思うかもしれない情報を避けていては前進できない」と考え、有志と「ロスアラモス日本協会」を設立し、原爆開発の地と被爆地を橋渡しする取り組みを続けている。同協会では、原爆投下を決定したトルーマン大統領の孫クリフトン・トルーマン・ダニエルさん(63)も活動を共にする。
 ダニエルさんは、白血病で亡くなるまで折り鶴を作り続けた被爆者、佐々木禎子さんについて知ったのをきっかけに、禎子さんの兄雅弘さんと交流。「米国の側にもこれまでなかった被爆地への共感と理解が広がっている」と訴える。ダニエルさんは雅弘さんと共に、12月の「真珠湾攻撃80周年」の式典に被爆地の視点を取り入れてもらおうと、米政府に働き掛けている。
 ◇進まぬ核軍縮
 米国では、時代とともに原爆投下の是非をめぐる世論が大きく変化している。1945年のギャラップ社の調査では85%が「原爆投下は正しかった」と答えたが、オバマ氏が訪問した16年5月のCBSテレビの調査では賛否が43%、44%と拮抗(きっこう)するまでになった。
 一方で、米国による核軍縮は遅々として進まず、19年には中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄した。今年1月には核の製造や保有を違法化する核兵器禁止条約が発効したが、日米両国は参加していない。
 原爆の歴史に詳しい作家カイ・バード氏は、オバマ氏が核廃絶を訴えながらも、核兵器の近代化予算を承認したのは「大きな皮肉だ」と指摘。このままでは「世界の核兵器は再び無意味な形で使われかねない」と警鐘を鳴らした。(2021/05/26-07:15)

2021.05.26 07:15Nation

5 Years On: Grassroots Efforts Growing in U.S. after Obama's Hiroshima Visit


Five years after former U.S. President Barack Obama made a historic visit to the atom-bombed western Japan city of Hiroshima, his ideal of realizing a world without nuclear weapons remains a distant goal.
   With world politics in turmoil, his historic visit is no longer a popular topic of conversation.
   Still, grassroots efforts have emerged in the United States to deepen mutual understanding with people in areas hit by the August 1945 U.S. atomic bombings, offering small but unshakable signs of change in the attitudes of Americans.
   Obama visited Hiroshima on May 27, 2016, becoming the first sitting U.S. president to set foot in either Hiroshima or Nagasaki, southwestern Japan, which were devastated by the U.S. atomic bombings on Aug. 6 and 9, 1945, respectively.

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