震災で気付いた「助け合い」の精神=感謝の思い胸に30年―ラグビー・リーグワン神戸
神戸市を拠点に活動するラグビー・リーグワンの神戸。1995年1月15日、神戸製鋼(当時)は日本選手権で7連覇を達成した。その2日後、阪神大震災が発生。黄金期を迎えたチームも逆境に立たされた。主力として活躍し、現在は神戸のチームディレクターを務める弘津英司さん(57)は「壊滅的で、想像を絶するような状況だった」と回顧する。
早朝、突然の揺れが襲った。「ベッドから投げ出された。頭が真っ白」。ラグビー部の寮は壁に亀裂が入って半壊。社宅は1階が崩れ落ちた。職場に優勝報告をする予定が一変。新日鉄釜石に並ぶ7連覇を遂げた余韻は一瞬で消えた。
選手主体でイベントを開き、住民や社員とのつながりが強かったラグビー部。救助活動の役目を買って出た。工場で寝泊まりする日々。恐怖でしばらくは一人で寝られなかったという。
約1カ月後、部の存続が伝えられた。高炉は止まり、バレーボール部などは休部が決定。「皆さんが復旧復興と進んでいる時にラグビーなんかしとってええんかなと」。感謝とともに複雑な思いが交錯した。
グラウンドは液状化し、一部はがれき置き場となった。練習場を転々。難局で迎えたシーズンは日本選手権に進めずに連覇は途切れたが、誰一人言い訳にはしなかった。96年にチャリティーマッチを開催するなど力を注いだ。
忘れられない光景がある。全国から支援物資が届いた港での作業を手伝う際、お年寄りや子どもを気遣う被災地の人々を目にした。「みんなで規律を守っていた。物を分け、励まし、助け合っていた。必死な中でも、人の優しさがあった」。
国際統括団体のワールドラグビーが定める「ラグビー憲章」。競技に関わる全ての人が共有する価値観とし、「規律」や「品位」、「尊重」など五つの特徴が連なる。「これがないとラグビーは成り立たない。皆さんが当時実践していた」。困難な状況でも周囲の人を思いやる姿に、競技に通ずる大切な精神を見た。同時に伝える義務があると強く感じた。
今でもラグビー部が存続した恩はチームで共有し、外国人や若手選手も心得ている。2020年から追悼ムービーを作製。19日の公式戦では特別ジャージーを着用する。「感謝を忘れてはいけない」と弘津さん。今後もプレーを通じ、元気を届ける使命は続く。
[時事通信社]
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