初任地で「恩返ししたい」=28年ぶり長田区勤務の市職員―震災からの再生見届け・神戸
30年前の阪神大震災で甚大な被害を受けた神戸市長田区の復興再開発事業が昨年10月末に完了し、再生に一区切りがついた。昨年春、同区役所に保健福祉部長として28年ぶりに戻り、完成を見届けた市職員の浦川稔弘さん(55)は「長田は初めて勤務した街。恩返しがしたい」と意気込む。
震災で長田区は震度7の揺れに襲われ、921人の犠牲者を出した。老朽化した木造住宅や商店が密集していたため、多くの建物が倒壊。全焼した家屋は市内の約7割の4759棟に上った。
震災当日、浦川さんは大阪市福島区の自宅からバイクで約1時間半かけて長田区へ移動。途中、火災に見舞われる家屋が目に飛び込んできた。長田区に入ると、街の一帯が燃え上がる凄惨(せいさん)な状況を目の当たりにした。
ようやくたどり着いた区役所ではわずか数時間で備蓄物資が底を突き、被災者からは「毛布をくれ」「家が燃えている」「お棺や段ボールはないか」と悲痛な声が絶えなかった。「何もできず、聞くしかなかった。自分は必要ないのでは」と無力感にさいなまれたという。
発生2カ月後、市は復興に向けた都市計画を策定。総事業費2279億円を投じ、商業ビルやマンションなど計44棟のほか、商店街のアーケードや公園を整備する兵庫県内最大規模の復興事業だった。
当初は震災発生から10年後に完成予定だったが、地権者約1600人との土地の買収協議が難航した。延期を繰り返す中、地域を離れる人も相次ぎ、約30年を経て震災前の下町はビル群が立ち並ぶ街へと変貌した。
「街並みは変わったが、長田には変わらない良さがある。誰もが住んで良かったと思う街になってほしい」と願う浦川さん。事業完了の直前に区役所に戻ったことは「何かの縁だ」と感じている。「災害の教訓はもちろん、人の優しさあふれる長田の良さも知ってほしい」と、今なお下町情緒が残る長田の魅力を伝えていくつもりだ。
[時事通信社]
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