69時間連続で特別番組=被災者に寄り添ったラジオ―デマ防ぐ役割も・阪神大震災30年
阪神大震災で壊滅的な被害を受けながらも、発生後69時間にわたって安否情報や被災地の状況を伝えた地元ラジオ局がある。神戸市に本社を置く「ラジオ関西(AM神戸)」。残ったスタジオからCMなしで放送を続け、被災者を励ました。
1995年1月17日午前5時46分、パーソナリティーの谷五郎さん(71)とアシスタントだった藤原正美さん(64)は、番組のスタンバイ中に被災。強烈な揺れでコンクリート壁が剥がれ落ち、局内のあらゆる物がなぎ倒された。
当時、須磨区にあった社屋は甚大な被害を受けたが、スタジオの一つが奇跡的に無事だった。停電で一時放送が途切れたものの、約14分後に再開。藤原さんがマイクテストのつもりで「しゃべりましょうか」と話したのが第一声だった。リスナーに音声が伝わっていることが分かり、不安にさせないよう「こちらはAM神戸です」「須磨で大きな地震がありました」などと、とにかくしゃべり続けた。
約2時間後、局宛てに情報提供を呼び掛けると、安否情報や救助を求める電話が殺到した。「たくさんの人の声を届けたい」との一心で、交代で読み上げた。結局、発生から3日間、69時間連続で特別番組を放送。ラジオカーを走らせ、被災地の状況もリポートした。
「局内に重傷者がいなかったのが幸い。いたら人命救助で放送どころではなかった」と谷さんは振り返る。被災者から「ラジオをつけたら、いつもの時間にいつもの声が聞こえてきた。それが一番ほっとした」と言われたのがうれしかったといい、「非日常の中でも日常を感じられたのではないか」と推し量る。
毎日放送(大阪市)でテレビ記者をしていた際に阪神大震災に遭遇し、その後12年間ラジオの災害番組を手掛けた大牟田智佐子さん(57)は「同じ時間を共有することで『一人じゃない』と励まされる。被災者に寄り添う『共感放送』ができるのがラジオの強みだ」と指摘する。
SNSが台頭し、この30年でメディア環境は大きく変わった。それでも「SNSは多様な情報を得られるようで、実はフィルターがかかった狭い世界。思い込みに陥りやすい危険性もある」と警鐘を鳴らす。「ラジオの魅力は、双方向のやりとりによる信頼感。災害時のデマを防ぐ役割もある」と意義を語った。
[時事通信社]
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