「故郷のにぎわい取り戻す」=被災地ツアーで復興後押し―神戸・長田のタクシー会社社長
30年前の阪神大震災で被災した神戸市長田区の現状を伝えようと、地元商店主らが「被災地ツアー」として全国の修学旅行生を受け入れている。発案したタクシー会社社長は「震災で故郷の風景が消え、当時のにぎわいを取り戻したかった」と語り、その後の街の活性化に一役買っている。
1995年1月17日に起きた地震で、長田区は甚大な被害を受けた。「近畿タクシー」社長の森崎清登さん(72)は、同区にある本社や自宅は無事だったが、地震直後の火災で焼け野原と化した地元を見て「がくぜんとした」という。
発生から1年が過ぎても街に絶望感が漂う中、ボランティアの一人が「ずっといたら地元の人が行動するきっかけがなくなる」と、支援活動に一区切りを付けて去った。「何か行動しなければ」と思いつつも会社の再建などに追われていた森崎さんは、これを機に被災者のまま生きるのではなく、生き残った者として街の復興に尽くそうと決意した。
その後、知人に誘われて参加した地元・大正筋商店街の会合で「長田を観光の街に」と提案した。当初は反対もあったが、「社会学習としての観光」を訴えて商店主らを説得。修学旅行で全国から関西を訪れる中学生向けの「被災地ツアー」を企画し、実現にこぎ着けた。
ツアーでは、バスで大正筋商店街を見学してもらい、商店主らが語り部として被災経験を伝える。2000年ごろに始まり、これまでに全国から計100校以上を受け入れた。語り部となる商店主らも増えているという。
この取り組みはその後、各地の被災地から注目された。東日本大震災の約4カ月後には講演の依頼を受け、宮城県石巻市などに出向いて地震後の地域活性化や中小企業の再建について話した。
同社では復興した神戸を楽しんでもらおうと、専門店で最高級の肉を味わう「神戸ビーフタクシー」など、タクシーを活用した15種類の独自ツアーも展開中だ。人とのつながりを大切にしながら、さまざまな取り組みで被災地の復興を後押ししている。
[時事通信社]
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