自公、必然の後退【24衆院選】
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。プロ野球でヤクルトと阪神などを率いた野村克也元監督の名言だ。「政治とカネ」が大きな争点となった衆院選での自民、公明両党合わせての過半数を割る敗北は、不思議ではない。むしろ、必然と言えよう。
派閥裏金事件で国民の怒りを買った自民党は9月の党総裁選を通じて、党の刷新をアピール。決選投票で勝利した石破茂首相(総裁)は総裁選の期間中、予算委員会で野党と本格論戦を交わした上で、衆院解散の時期を判断すると言い続けた。ところが、勝利の3日後に、予算委を開かないまま解散に踏み切ると表明。前言を翻した。
野党に小選挙区での候補者調整の時間を与えない狙いとみられたが、党内野党的な存在として、自身の主張を貫いてきた石破氏の持ち味は薄れた。また、いわゆる裏金議員の処遇でも当初、公認の方向で調整を進め、世論の反発を受けて一部議員を非公認とするなど対応が後手に回った。
極め付きは選挙期間中に発覚した非公認の候補者の党支部への2000万円の支給。党勢拡大への「活動費」で選挙では使わないと説明しても、支給額が公認候補と同額(公認料と活動費を合わせて2000万円)では説得力を持つはずがない。
街頭演説で「政治とカネ」以外のテーマにもかなりの時間を割き始めていた立憲民主党など野党各党の幹部は、格好の攻撃材料を得て「偽装非公認」などと再び自民党を攻め立てた。
これだけ「失策」を重ねれば、多くの有権者から「自己改革は無理」と判断されても仕方がない。
一方、石破氏同様、就任したばかりの石井啓一公明党代表も、自民党の非公認候補を「推薦しない」と明言した2日後に、2人を推薦した。自民党ですらけじめとして、公認しなかった候補者に対し、堂々と推薦を出す。選挙協力で得られる票を優先した結果だろうが、代償として「クリーン」を掲げる党の看板は色あせた。石井代表が街頭で「政治改革の先頭に立つ」といくら訴えても、有権者には響かなかっただろう。自身も落選した。
敗北の自公、躍進した立民に限らず、政治資金のさらなる透明化を進め、政治に対する国民の信頼を回復することは、与野党共通の責務だ。国民生活に直結する諸課題に国会が対処するためにも、「政治とカネ」に早急に区切りをつける必要がある。
[時事通信社]
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