共和党地盤の農村部に葛藤=貿易戦争、移民政策を懸念―激戦州ウィスコンシン・米大統領選
チーズ生産量で全米トップを誇る「酪農王国」の中西部ウィスコンシン州。11月の大統領選で、民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領が接戦を繰り広げる激戦州の一つだ。農村部は共和党の地盤だが、トランプ氏が在任時に始めた対中貿易戦争で農家は打撃を被った。同氏の看板政策の移民規制強化も、労働力を移民に依存する州の農業の行方に影を落とす。それでもトランプ氏支持なのか。葛藤を抱える農村を歩いた。
◇報復関税、農業が打撃
10月半ばの週末、州西部の小都市リバーフォールズで行われた「ウィスコンシン農業者組合」の集会を訪れた。地元農家とその家族ら20~30人ほどが昼食を共にする傍らで、会長の酪農家ダリン・ボンルーデンさん(57)に農業を巡る最大の懸念を尋ねると、トランプ氏の返り咲きを警戒する答えが返ってきた。「関税をかけ合う『戦争』になってしまわないか」
同州では2016年、トランプ氏が共和党候補として32年ぶりに勝利し、当選につなげた。しかし20年はバイデン氏が奪還。「ホワイトハウスへの道はウィスコンシンを経由している」(ハリス氏)とされるゆえんだ。
トランプ氏は今回の選挙戦で、関税引き上げによる国内製造業保護を打ち出している。ボンルーデンさんは「他の製品に関税がかけられるといつも(報復で)農業が真っ先に苦しむ」と顔をしかめる。ウィスコンシン州にとって、中国は現在、カナダ、メキシコに次ぐ第3位の農産物輸出先。州によると、報復関税の影響で中国向けの農産品輸出は19年、前年比で約3割減少した。
もっとも、他の農業者組合員に聞くと「インフレが本当に広がった。バイデン・ハリス政権は評価しない」(穀物農家、45歳)、「好きではないが、恐らくトランプ氏に投票する」(牧羊農家、42歳)との声も上がった。
州中部マラソン郡は高麗ニンジンに似たアメリカニンジンの大産地だ。約30年間、ニンジンを栽培するジョー・ハイルさんの農場を訪ねると、ちょうど収穫の最盛期だった。
ハイルさんのニンジンは90%が中国向けだ。トランプ氏の貿易戦争の影響よりも、その後バイデン大統領が強硬姿勢を維持したことで「対中貿易が増えていない。バイデン・ハリス政権は農家に何もしていない」とハイルさん。エネルギー価格引き下げなど、経済については「ハリス氏よりもうまくやれる」と、トランプ氏の手腕に期待する。
◇どちらにも「投票できない」
ハイルさんのニンジン農場では、メキシコからの労働者が収穫作業に携わっていた。特に大規模農家では、移民が労働力として欠かせない。こうした中、移民問題は大統領選の重要争点に浮上。「不法移民の強制送還」を主張するトランプ氏だけでなく、ハリス氏も不法移民への対応を厳格化する方針だ。
「われわれの労働力の重要な部分は移民だ」。州南部ウォータールーで3700頭の大規模酪農場を営むマーク・クレイブさん(58)は認める。移民政策に関し「トランプ氏は4年間大統領だったが、何もしなかった。バイデン氏もそうだ。民主、共和どちらも解決策を示しておらず、投票できない」と言い切った。
[時事通信社]
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