徹底攻撃望む「恐怖心」=終わり見えぬ戦闘―立山防衛大名誉教授・ガザ衝突1年
イスラエルはイスラム組織ハマス壊滅を掲げ、1年にわたりパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けている。レバノンへの地上侵攻も開始した。立山良司・防衛大名誉教授は戦火が拡大し続ける背景として、イスラエルのユダヤ人社会に渦巻く「猛烈な恐怖心」を指摘する。
―なぜガザ攻撃は終わらないのか。
イスラエル経済に深刻な影響が出る中で、ネタニヤフ首相の政治的思惑だけでは合理的な説明がつかない。8月の世論調査では、イスラエル軍がガザとエジプトの境界を管理する理由について、回答したユダヤ系市民の約6割が「軍事的、戦略的考え」を選んだ。「ネタニヤフ氏の政治的な考え」を選んだのは約3割にすぎない。
つまり、もし軍がガザから撤退すれば、ハマスは再び襲ってくるという猛烈な恐怖心がイスラエルのユダヤ人社会にあるのではないか。ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)以来続いているような恐怖心であり、対抗するために過剰な力を行使しても構わないという考えにつながっている。
―人質解放より攻撃を優先するのか。
(ガザやヨルダン川西岸も、ユダヤ人が神から授かった土地と見なす)大イスラエル主義者や右派の思想的な流れも影響しているだろう。ネタニヤフ政権で与党の2宗教政党「宗教シオニスト」と「ユダヤの力」は、ガザ撤退に断固反対だ。
レバノンでの交戦についても、米側の休戦案に、この2党が連立政権からの離脱をちらつかせて反対した。そのためネタニヤフ氏は休戦案を拒否したとされる。ネタニヤフ氏一人が首相の地位を維持するために戦闘を続けたいと思っているのではなく、それを支えるユダヤ人社会の恐怖心や思想的な流れがある。
イスラエルでは人質解放デモが毎日行われているが、右派や大イスラエル主義者は、人質に取られたことを「弱さ」と捉え、それを繰り返さないために、ガザ再占領と入植を優先するべきだと考えているのではないか。
―事態打開の見込みは。
米国がイスラエルへの軍事支援を中止するしかないが、その可能性はない。バイデン大統領はもともと親イスラエルであり、2001年の米同時テロ以来の「テロリストはせん滅するべきだ」という考えもある。口先では停戦を呼び掛けているが、それがバイデン政権の矛盾だ。
ガザの戦後統治計画は一切示されておらず、このままではイスラエル軍が駐留し続けることになる。一部に軍が展開したままの占領地ヨルダン川西岸のように力で抑え込むという考えだ。しかし、どれほど力を使ってもハマスを壊滅させることは不可能で、すぐにまた戦闘員が現れる。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに関しても同じだ。それぞれに犠牲者が出続けるだけで、終わりは見えていない。
[時事通信社]
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