新たなみらいが見据える未来=初の北極域研究船で巻き返し―逆風乗り越え、建造決定・第2部「蒼い北極」(3)・〔66°33′N=北極が教えるみらい〕
日本初の砕氷機能を持つ北極域研究船「みらいII」の建造が本格化している。温暖化による北極の海氷減少で資源開発が加速する中、各国は極地で活動を行える砕氷船の建造を競い合う。日本も早くから北極が秘める可能性に注目。ただ、砕氷船建造にはさまざまな反対があった。関係者は「日本も頑張らないと他の国に置いていかれる」と巻き返しを期待する。(肩書は当時)
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◇追い抜く中国
1995年夏、ロシアの貨物船「カンダラクシャ」が横浜を出港した。ロシア沿岸を通り、目指したのはノルウェー北部キルケネス。スエズ運河を通る航路と比べ、航行距離を3~4割短縮できる北極海航路の利用可能性を調査するためだ。日本がロシア、ノルウェーと共同で行った同航路の調査は「アジアで一番早かった」と笹川平和財団海洋政策研究所の阪口秀所長は語る。
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同財団は北極観測を活発化させて発言力を高め、北極海航路の有効利用などにつなげる重要性を文部科学省や財務省に訴え続けた。だが、政府の動きは鈍く、新船建造の予算はことごとく却下された。
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後発の中国は93年にウクライナで建造された砕氷船「雪竜」を購入し、2019年には国産の「雪竜2」を就航させた。韓国も国産の砕氷研究船「アラオン」を保有する。阪口氏は「中国と韓国は一気に日本を抜き去っていった」と語る。北極に関する論文数は中国が群を抜いているという。
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◇南極と対立
日本が出遅れた背景について、関係者は「北極は人気がない」と指摘する。1957年から観測が始まり、映画などの題材になった南極に比べ、北極はなじみが薄い。
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みらいII建造にも反対の声が上がった。阪口氏は「国立極地研究所でも北極研究はマイナーで、『南極観測の予算が減る』と強い抗議があった」と語る。みらいIIを運用することになる海洋研究開発機構(JAMSTEC)からも、船の維持・運用に予算が取られると反発が起きたという。
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麻生太郎財務相(当時)を説き伏せ、2021年度予算に新船建造費をねじ込んだのが、今の上川陽子外相や新藤義孝経済再生担当相ら「北極のフロンティアについて考える議員連盟」メンバーだった。決め手となったのは、新造船を外国人研究者らも乗る国際研究プラットフォームとし、「科学技術外交のカードにする」という方針だった。
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◇大きな期待
26年11月の就航を予定するみらいIIは、総建造費339億円。厚さ1.2メートルの氷を3ノット(時速約5.6キロ)で砕いて進む能力がある。来年度で運用が終了する海洋地球研究船「みらい」の調査は、海氷のほとんどない海域に限られていた。
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圧倒的にデータが不足している北極海中央部での観測を可能にするみらいIIへの期待は大きい。JAMSTECの菊地隆・北極環境変動総合研究センター長は「新たに得たデータや知見を生かすことで将来予測の精度向上につながる」と語る。
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各国は科学技術・研究を「軍民両用」として安全保障などにも活用する。阪口氏は「日本も科学研究の成果を社会に還元していかなければ、国民の理解を得るのは難しい」と強調。みらいIIが新航路開拓やエネルギー資源開発、外交などに寄与する未来を見据えている。
▽ニュースワード「みらいII」
みらいII 2026年竣工(しゅんこう)予定の日本で初めての砕氷機能を持つ北極域研究船。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用する。全長128メートル、幅23メートル、国際総トン数1万3000トン。
研究船として世界で初めて液化天然ガスと船舶用燃料油の両方を燃料とし、環境負荷低減を目指した。25年度に運用が終わる海洋地球研究船「みらい」と同じくドップラーレーダーを搭載するなど、大気や気象、海洋をオールラウンドに観測する機器を備える。
[時事通信社]
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