複雑化する北極の安保環境=識者談話・第1部「二つの北極」(5)〔66°33′N=北極が教えるみらい〕
大西富士夫・北海道大北極域研究センター特任准教授の話
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もはやひとくくりで北極の安全保障環境を語れなくなっている。地政学的には欧米とロシアが北極を二分しているが、軍事的には(1)北欧・欧州側の北極(2)中央北極海(3)北米側の北極―の三つの方面に分けて考える必要がある。
ロシアのウクライナ侵攻と北大西洋条約機構(NATO)の北方拡大により、北欧・欧州方面の北極圏は間違いなく高い緊張状態にある。
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中央北極海方面では、ロシアがウクライナ侵攻に陸上戦力を集中させ、北極で新たな軍事作戦を行う余裕はない。NATOにはノルウェー領スバルバル諸島以東のロシア側で軍事活動を行う意図はなく、緊迫した状況ではない。
北米側の北極圏は、米国とカナダが共同運営する「北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)」があり、ミサイルや爆撃機を常に監視している。これら三つの領域が合わさる緩衝地帯がフィンランドとスウェーデンだったが、両国のNATO加盟で「三色丼」の真ん中の梅干しが抜けたような形になった。
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一方、中国は北極海に研究船を派遣して海底地形のデータなどを取っているとされる。ただ、北極海の入り口に当たるベーリング海峡は平均水深約40メートルと浅く、潜水艦が探知されずに通過するのは不可能だ。わざわざ中国の潜水艦が危険を冒してまで北極海に進出する戦略的必要性があるとは思えない。
中国はデンマーク領グリーンランドの空港整備などへの投資を行おうとしたが、米国の介入で阻止された。欧州も中国の進出を警戒するようになり、北極への足掛かりを得るのが難しくなった。そんな中でコロナ禍が起き、中国経済もがたつき始めた。このため、中国の北極に対する戦略的関心が薄れ、遠い北極よりは台湾や南シナ海など近隣の核心的利益に集中する方針に変わってきている可能性がある。
[時事通信社]
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