ロシア、北極評議会「脱退も」=国際枠組みに揺さぶり―対中関係でジレンマ・第1部「二つの北極」(4)〔66°33′N=北極が教えるみらい〕
北極を巡るロシアの国際協力が岐路に立っている。プーチン政権は欧州とアジアを「最短ルート」で結ぶ北極海航路開拓を主導。豊富な海底資源が眠る北極圏を経済、安全保障上の戦略地域と位置付けてきた。しかし、ウクライナ侵攻を背景に西側諸国は対ロ協力を凍結した。ロシアは米国など8カ国で構成する北極評議会からの「脱退」も示唆し、揺さぶりをかける。
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◇ボイコットに直面
「北極評議会の活動がロシアの利益に合致しない場合、脱退も含めてあらゆる選択肢を検討しなければならない」。ロシア政府高官は侵攻3年目に差し掛かった2月、自国メディアに語った。
2022年、北極評議会の議長国(21~23年)だったロシアが侵攻を始めたことで、他の加盟7カ国は会合ボイコットを宣言した。同6月にロシア抜きで一部の活動を再開。今年2月には、ロシアを含む形で専門家レベルの作業部会のオンライン会合を再開することで全加盟国が一致した。
だが、ロシアとの政府レベルの協力再開時期は見通せない。同高官は「北極評議会は最低速度で動いている」と強い不満をにじませる。ロシアは2月、同評議会への年次分担金の支払い停止を表明した。
米ロ間に唯一残る核軍縮枠組みの新戦略兵器削減条約(新START)履行停止に、包括的核実験禁止条約(CTBT)批准撤回。西側諸国と対立するプーチン政権は、昨年だけでもこれらの国際枠組みから離脱した。
だが、北極評議会に関しては「残留」の選択肢が国益にかなうと判断しているとみられる。脱退すれば北極に関する意思決定への影響力を失うからだ。
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◇協力とけん制
ロシアは「35年までのロシア北極圏発展・国家安全保障戦略」に基づくエネルギーや海運インフラなどの開発を目標に掲げる。プーチン大統領も昨年12月、「北極の包括的開発は議論の余地のない優先事項だ」と明言した。
権益の裏打ちとなる軍事力増強にも余念がない。北大西洋条約機構(NATO)の「北方拡大」に対抗すべく、北西部ムルマンスク州に戦略爆撃機を配備。北方艦隊(司令部同州セベロモルスク)は今年2月、レニングラード軍管区に統合し、北欧ににらみを利かせる。
巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として「氷上シルクロード」建設を目指す中国との関係にはジレンマも抱える。北極圏ヤマル半島の液化天然ガス(LNG)開発に続くギダン半島の新規事業「アークティックLNG2」が米国の制裁対象に指定されたため、開発継続には中国の資金協力が不可欠だ。
一方で、中国に北極での主導権を奪われるのは避けたいのが本音とみられる。中ロは今でこそ軍事演習を活発化させているが、プーチン政権は、中国艦船が北極海航路の入り口としてロシア核戦力の「聖域」の一つであるオホーツク海をわが物顔で行き来する事態を警戒する。近年の北方領土の軍事化は、日米だけでなく、中国をけん制する意味合いもあると指摘されている。
[時事通信社]
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