戦禍の声届けるために=唯一のパレスチナ代表―陸上〔パラリンピック〕
何度も胸元の旗を指さし、存在を示した。パリ・パラリンピックでただ一人のパレスチナ代表選手、ファディ・ディーブは8月30日に陸上の男子砲丸投げ(座位F55)に出場。観衆から大きな声援が送られた。
パレスチナ自治区ガザ北部出身で、現在はフランスで暮らしている。故郷ではイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続いており「私は自身の話をしに来たのではなく、ガザで殺され、負傷した人々の声を代弁するためにここに来た」と言い切った。
障害を負ったのは2001年。銃撃戦に巻き込まれて背中を撃たれ、脊椎を損傷した。幼い頃からスポーツは得意で、車いすバスケットボールの選手となり、16年に欧州でプレーするため故郷を離れた。昨年12月にイスラエル軍の攻撃により、弟やいとこら親族17人を亡くした。当時は試合中で、携帯電話には弟からの着信が何度もあったという。「世界は今こそ目覚め、この大量殺りくを止めないといけない。私たちは自由と人権を求めている」と訴えた。
家族を亡くし、スポーツを続ける意味を自問自答することもあった。ガザにいるスポーツ選手らは国外に出られず、満足に練習できる環境も与えられていない。ガザの現状、平和を求める声を全世界に届けるためのパラ出場。続けた意味は確かにある。「パレスチナには血が流れているだけではない。誰もが希望や夢を持っている。人間性は守られなければいけない」。あふれる思いが止まらなかった。(時事)
[時事通信社]
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