大会の全てがレガシー=パリが示した新しい五輪〔五輪〕
パリ五輪は新たな五輪の形を示し、大きな分岐点になった大会として、記憶に刻まれる。大会組織委員会はレガシーの話になると、「これは最も大事なことなんだ」と熱く強調した。将来に向かって何かを残す。「遺産」こそが最も重視されていた。
その象徴としてセーヌ川があった。夏季大会では史上初めて競技場外で開催された開会式の舞台となり、競技会場にもなった。
開会式はテロなど安全面が不安視され、かつてない警備態勢を敷く必要があった。川の水質問題に直面したトライアスロンのスイム、オープンウオーター(OWS)も、他の場所に移した方が運営は簡単だった。しかし、あえてセーヌ川で行うという難しい選択をしたのには理由があった。
パリのイダルゴ市長はセーヌ川の浄化を「五輪のためだけでなく、市民が遊泳できる遺産として残る。海をきれいにすることにもつながる」。市は以前から浄化に取り組み、五輪を機に多くの施設が完成するなど、その流れが加速した。来年には遊泳施設も開場予定。五輪の利益を市民に還元する明確な意図があった。それこそが、今大会がもたらす最大のレガシーと言えよう。
歴史的な名所、観光地を競技会場に変えたのも斬新な発想だった。エッフェル塔前でビーチバレー、ガラス屋根が印象的な展示会場のグラン・パレではフェンシング―。華やかさに目がいきがちだが、大きな意味があった。ビーチバレーの会場担当者は言った。「五輪が終われば競技場は残らない。でも街にスポーツを持ち込むやり方を示した。それこそがレガシーなんだ」
これまでの五輪は会場新設などに巨額の投資が行われ、それがレガシーとされた。東京五輪もそう。パリ大会では新設会場は二つのみ。他は既存や仮設の施設などを活用し、競技会場をつくり上げた。
その結果、パリの街の真ん中にスポーツが持ち込まれ、観客との距離も近づいた。今後の五輪は環境に配慮し、経費を抑えるコンパクトな運営が求められる。パリが新たなモデルとなる。
恵まれない地域と言われるパリ郊外サンドニでは五輪を機に街の整備が進み、住民に恩恵もあった。華やかなセーヌ川の開会式で幕を開けた大会は、決して見せかけだけでなく中身の伴う五輪となった。そして、全てがレガシーとして引き継がれていく。 (時事)
[時事通信社]
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