中央アジア外交、停滞懸念の声=岸田首相、地震警戒で歴訪中止
岸田文雄首相によるカザフスタンなど3カ国歴訪見送りを受け、政府・自民党内で中央アジア外交の停滞につながりかねないと懸念が出ている。首相が中止を決めたのは初の南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)発表を受けて危機管理対応を優先したため。その判断はやむを得なかったとの見方が強いが、中国とロシアの「裏庭」で日本の存在感を高める機会を逸したとの声も漏れる。
「訪問予定だった国々への訪問は適宜調整していきたい。関係を力強く推進していく考えに何ら変わりはない」。首相は9日夜、首相官邸で記者団にこう強調した。
首相は9~12日の日程で、モンゴルに加え、中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンを訪問する予定だった。中央アジア5カ国はロシアと歴史的に結び付きが強く、近年は中国も巨大経済圏構想「一帯一路」の下で影響力を拡大する。中ロ主導の上海協力機構(SCO)にはトルクメニスタンを除く4カ国が参加する。
首相は5カ国と日本の対話枠組みの発足20周年に合わせてカザフで5カ国と初の首脳会合に臨み、幅広い支援をうたった共同宣言を発表。日本企業約50社に同行を求めて民間レベルの協力を打ち出し、5カ国と中ロの間に割って入る青写真を描いていた。
目算を狂わせたのは、8日に日向灘を震源とする最大震度6弱の地震が発生し、気象庁が南海トラフ地震への備えを呼び掛けたことだ。首相は9日の長崎市での記者会見で「危機管理の最高責任者として念には念を入れる」と歴訪中止の理由を語った。自民党内からは「9月の党総裁選を意識した」(閣僚経験者)との見方も漏れる。
首相は9日夜、カザフのトカエフ大統領、ウズベクのミルジヨエフ大統領と電話で会談し、訪問中止の理由を説明。政府高官によると、両大統領は判断に理解を示し、一人は「地震は大丈夫か」と気遣った。首相は他国の首脳とも12日に電話会談する。ただ、自民内からは「礼を失したのは間違いない」(閣僚経験者)との指摘が出ている。
首相は5カ国との首脳会合の機会を改めて探る構え。ある政府関係者は「首脳会合は中止ではなく、あくまで延期だ」と強調するが、日本と5カ国の首脳が一堂に会する日程調整は複雑だ。9月の党総裁選前の実現は絶望的との見方が強い。
これまで日本の首相が中央アジアを訪問したのは2006年の小泉純一郎氏と15年の安倍晋三氏のみ。ある外務省幹部は「首相訪問は10年に1度。次はいつになるか分からない」と懸念を示した。
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