求めた「ハイブリッド」=涙の東京バネに、つかんだ金―レスリング・文田選手〔五輪〕
3年前の雪辱を果たし、金メダルに輝いたレスリング男子グレコローマン60キロ級の文田健一郎選手(28)=ミキハウス。得意の投げ技にこだわり決勝で敗れた東京五輪の反省を踏まえ、攻守が組み合わさった「ハイブリッド」なレスリングを追求してきた。
銀メダルで涙を流した東京五輪。1週間後、父敏郎さん(62)は息子に電話をかけた。「目指した色じゃなかった。3年後は必ず取り返す」。力強い言葉が返ってきた。
文田選手にとって、幼い頃からマットが遊び場だった。山梨県立韮崎工業高校でレスリングを指導する父のそばで、ブリッジをしたり、小さなトランポリンの上で跳びはねたり。敏郎さんは「遊びを通して体の柔らかさが磨かれていった」と話す。
小6から本格的に競技に取り組んだ息子に敏郎さんが教えたのが「投げてなんぼ」の精神。「派手なレスリングは観客も喜ぶ。何より技が掛かると楽しい」と笑う。
中学時代は、毎週日曜日に朝から昼までマンツーマンで指導。「何万回投げたか分からない」ほどの反復練習で、柔軟性を生かした「反り投げ」を磨いた。強力な武器を手に入れた文田選手は、高校時代、タイトルを総なめにし、大学生の時に世界選手権を制す。
だが、代名詞にもなった反り投げは、東京五輪では徹底的に警戒された。投げにこだわり過ぎた―。この3年、あえて投げず、守備を固めて機会をうかがうスタイルを取り入れるなど、戦術の幅を広げることに腐心してきた文田選手。自らのレスリングをこう語る。「ハイブリッドになった」
決勝で勝負が決まると、応援団がいる観客席に向かって小さくうなずいた。日の丸を背負い、マット上で念願だったウイニングランをし、笑顔を見せた。
[時事通信社]
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