五輪覇者が見たかった景色=競泳女子、大橋悠依〔五輪〕
東京五輪で手に入れた二つの勲章。競泳の個人メドレー2冠で夏季大会日本女子初の快挙を遂げてから3年を経て、大橋悠依選手(28)=イトマン東進=が2日、200メートル個人メドレーに出場した。偉業を遂げても満たされなかった思いを胸に、パリにたどり着いた。
新型コロナ下による原則無観客開催だった3年前の東京大会。ゴールにタッチして振り返り、自身の優勝を知らせる電光掲示板を見ても、家族や親しい友人らから受ける祝福の拍手がなければ、喜びは半減する。
物足りない。そう思ったのは、自身の泳ぎに対してもだ。東京五輪の優勝タイムは、自己記録に届いていない。やり残したことがある。その思いだけで走ってきた。
パリ五輪を前に世界の勢力図は変わった。2022年世界選手権は開幕前の注目選手として世界のスイマーと記者会見に臨んだが、個人メドレー2種目とも表彰台にすら立てなかった。
頭をよぎったのは、同じ東洋大のOBで16年リオデジャネイロ五輪金メダルの萩野公介さんの姿。練習している様子を見て「もっと楽しめばいいのに」と思ったという。いざ自分が五輪覇者となってみると「そうなった人にしか分からない気持ちがあるんだな」と痛感した。
400メートル個人メドレーは06年生まれのサマー・マッキントッシュ(カナダ)が昨年に世界新記録を樹立。今春に行われた日本の五輪代表選考会では若手に屈して4位に終わり、連覇への挑戦権すら得られない試練を味わった。
最後につかみ取った200メートル個人メドレーの五輪切符。「ここで(代表に)入れなかったら、やめることになると思う」と言って、退路を断った五輪女王の意地が詰まっている。
逆境をはねのけ、再び立った大舞台。想像以上の回り道と苦境を乗り越えた先に、予選からプールを彩る満員のパリの観客。「入場してから、すごくわくわくした。なんかすごいな」。最初のレース後にはスタンドに向かって手を振り、余韻に浸っているようだった。 (時事)
[時事通信社]
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