苦悩の時を乗り越えて=強さ取り戻した永瀬―柔道〔五輪〕
苦悩の時を乗り越えて、最高の舞台で底力を発揮した。柔道の男子81キロ級で連覇を果たした永瀬貴規選手(30)=旭化成=は決勝を一本勝ちで締めくくると、丁寧に四方へ一礼。鮮やかな復活劇に、日本代表の鈴木桂治監督は「この3年間で一番、素晴らしい試合を見せてくれた」と脱帽した。
豪快に投げる派手さはなくても、着実に相手を追い詰めて仕留める。これぞ永瀬選手の柔道だった。決勝の相手は世界選手権3連覇のグリガラシビリ(ジョージア)。組み手争いで優位に立って徐々に相手の攻め手を封じ、強引に背中を取りに来たところで横につき、谷落としで技あり。再び同じ展開に持ち込むと、同じ技で終わらせた。
東京五輪で頂点に立った後は、国際大会での優勝に見放されてきた。攻めが遅く、指導を重ねて自滅する展開が目立った。昨年12月のグランドスラム東京で惨敗すると、日本代表の小野卓志、秋本啓之両コーチと試合映像を見ながら全盛期との違いを話し合った。
筑波大の先輩でもある小野コーチは「安定した勝ちや結果を意識して、相手の攻撃を防ぐことを考え、全部が後手に回っていた」。永瀬選手は、追われる立場で守りの姿勢に入っていた自分に気付いた。今年3月の国際大会で東京五輪以来の優勝を果たすと、自信と強さを取り戻し始めた。
30歳になり、以前のような圧倒的な練習量を積めなくなっても「ただ『きついから休む』という妥協はしない」と誓った。国際大会で自信を失いかけても「五輪こそが真の世界一を決める大会、ここで勝ってこその世界王者」と自らを奮い立たせてきた。
普段は、「酒を飲まないと本音を話さない」と周囲が冗談交じりに語る寡黙な王者。試合後、報道陣の前でとつとつと語る言葉には、その誇りが凝縮されていた。 (時事)
[時事通信社]
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