「美帆が喜ぶことを」=犠牲者の母、今も支えに―相模原殺傷事件8年
「美帆が喜ぶことをしようというのが行動の基準」。相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件から26日で8年となるのを前に、亡くなった美帆さん=当時(19)=の母(60)が取材に応じ、今も美帆さんが支えになっている心境を語った。
中度知的障害と自閉症だった美帆さんは幼い頃、言葉は出ない一方、喜怒哀楽がよく分かる子だった。「かわいくて、本当は手放したくなかった」が、中学2年で児童寮に入れてからは足しげく通った。「音楽が好きで、会うたびに『歌ってほしい、お願いします』と手ぶりでお願いされた」と振り返る。
事件が起きたのは、津久井やまゆり園に転居して4カ月後だった。園内で美帆さんと対面すると「呼んでも返事はなく、とても冷たかった」。パニックに陥り、当時のことはあまり記憶にない。ただ、遺体を運ぶ車を泣きながら見送ったことはよく覚えている。
「美帆のところへ行きたい」。そう思うこともあったが、日航ジャンボ機墜落事故や東日本大震災で子供を亡くした遺族らとの出会いが転機となった。墜落現場や津波に襲われた被災地を訪れ、交流するうちに「同じ思いをしている人がいると分かり、少し楽になった」と明かす。
遺族らの後押しもあり、2020年1月の元職員植松聖死刑囚(34)の初公判を前に、それまで匿名だった犠牲者の中で、初めて美帆さんの名を公表した。「『甲A』などと呼ばれたくなかったし、美帆のことを覚えていてほしかった。今も後悔はない」と言い切る。
近年は講演活動に取り組んでいるが、事件の風化も感じている。「『障害者は不幸をつくる』なんてうそだ、間違っていると言い続けなければいけない」と力を込める。
美帆さんの写真などを飾った自宅内のスペースに、毎朝手を合わせ、話をするのが日課だ。「『美帆が悲しむことはやめよう。喜ぶことをしよう』という気持ちになり、悩みを解決できる。そばにいてくれていると感じる」。
[時事通信社]
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