米自動車労組、トランプ派じわり=執行部はバイデン支持―大統領選激戦州ルポ
11月の米大統領選で勝敗を左右する激戦州の一つ、中西部ミシガン州は、ラストベルト(さび付いた工業地帯)に位置する自動車産業の中心地。大手3社「ビッグスリー」の従業員が所属する労組は伝統的に与党・民主党の票田で、執行部はバイデン大統領への支持を表明済みだ。ただ、組合員の間では共和党のトランプ前大統領を推す声もじわりと広がる。
◇うそに飽き飽き
「『何もかもうまく行っている』とうそをつかれるのに飽き飽きした」。ビッグスリーの一角、クライスラーの親会社ステランティスの研究開発部門に勤めるクリス・ビターレさん(51)は、同州デトロイト郊外の自宅で政治への不満を吐露した。過去40年間に自動車製造業の衰退や雇用の国外流出、中心街の空洞化を目の当たりにしてきたからだ。
民主、共和にかかわらず、これまで政治家から「製造業へのリスペクトを感じてこなかった」。デトロイトはカジノやスポーツ賭博を柱とした「新たな経済」に移行すると説明されてきたが、「こうした産業では富が地元に残らない」とはなから信じていない。
2016年の大統領選でトランプ氏が掲げた保護主義的な通商政策などに共鳴し、以来2回連続で票を投じた。今回もそうするつもりだ。トランプ氏は他の候補者と異なり「うそをついていない」と感じる。製造業を支えようと「少なくとも挑戦はするはずだ」と変化に期待する。
◇組合の敵
一方、全米自動車労組(UAW)執行部はバイデン氏を推す。フェイン会長は、UAWが昨秋展開した大規模ストライキで、バイデン氏が「現職大統領として初めてピケラインに加わり、連帯を示した」と評価。これに対しトランプ氏は「億万長者」で、「UAWの掲げるすべてのことに敵対している」と突き放す。
ただ、個別の組合員が追随するとは限らない。16年の大統領選では、UAWは民主党のヒラリー・クリントン氏を支持したが、組合員の3割近くがトランプ氏に流れたとみられている。
米エマーソン大が先月中旬に実施した世論調査によると、ミシガン州内の組合員やその家族のうち、バイデン氏に投票すると答えたのは50.9%、トランプ氏は41.3%。この時点ではバイデン氏が優勢だったが、先月末のテレビ討論会での精彩を欠いた様子や、今月トランプ氏が演説中に銃撃された事件が投票先の選択に影響するとみられる。選挙戦からの撤退圧力が強まる中、バイデン氏が頼る組合票は盤石ではない。
◇スト支援に恩義
それでも、今月中旬にバイデン氏がデトロイトで行った演説には、多くの組合員が駆け付けた。ステランティスの部品管理部門で働くファビアン・ヒルさん(53)は「バイデン氏はストの時に私の職場に来てくれた」と恩義を感じている。高齢不安に関しては「これまでも彼は乗り越えてきた。周囲が支えればよい」と、応援の意志は固い。
ゼネラル・モーターズ(GM)で顧客対応を担うダニエル・パターソンさん(62)も、バイデン氏が「トランプ氏のせいでめちゃくちゃになった米国を立て直した」と称賛。「討論会ではうまくいかなかったが、次は大丈夫」と信頼を寄せた。 (デトロイト=米ミシガン州=時事)
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